一つの愛が性別・作戦・支配関係を乗り越える

たけうちんぐ 映画 お嬢さん パク・チャヌク 韓国映画 キム・ミニ ハ・ジョンウ チョ・ジヌン ムン・ソリ キム・テリ ⓒ 2016 CJ E&M CORPORATION, MOHO FILM, YONG FILM ALL RIGHTS RESERVED

 ピュアな瞳からは想像できない野心を燃やすスッキ、そんな彼女と共謀する藤原伯爵、亡き母の切ない記憶を胸に生きる秀子お嬢様。

 全員が嘘をついている。冒頭からその嘘を見破れる人は、探偵か推理小説家くらいだろう。

 しかし、その嘘が唯一敵わない感情がある。それは愛だ。一つの感情が性別、作戦、支配関係を乗り越えていく様がスリリングで、血と喘ぎ声を伴いながら襲いかかってくる。
セックスだけが女の正体を暴く。スッキと秀子の肌の触れ合いに真実が隠されている。秘め事を盗み見してしまったように、覗き穴から覗き込むようなスキャンダラスな性描写が心拍数を上げる。

 家の中で立入禁止の図書館の仕掛け、藤原伯爵の作戦の裏の裏、スッキと秀子の関係。誰もが欲望に実直で、それを得るために嘘を吐く姿が人間くさい。それらが過激なシーンでも一歩引いて人物を捉えるパク・チャヌクらしい視点により、どこか冷めたようで滑稽に思えてくる。
この監督でしか絶対に表せない、『オールド・ボーイ』など復讐三部作の頃のパク・チャヌクの鋭さが帰ってきた。145分間、感情が渦巻いて一切油断できないでいる。

 スッキと藤原伯爵の作戦と、スッキと秀子との愛の行方はいかに。三人の騙し合いに目が離せず、改めて愛の罪深さを思い知る。 そこには嘘が付き物でも、嘘が突き通せない感情が確かにあることを『お嬢さん』が教えてくれる。

ストーリー

 1939年、日本統治下の朝鮮半島。膨大な蔵書に囲まれた豪邸で支配的な叔父と暮らす令嬢・秀子(キム・ミニ)。ある日、彼女のもとへ新しいメイド・スッキ(キム・テリ)がやって来る。しかしその正体は、孤児として詐欺グループに育てられ、秀子の財産を狙う詐欺師(ハ・ジョンウ)の手先だった。
 スッキは秀子を誘惑し、彼女を精神病院に入れて財産を手にするという作戦に乗る。だが、その計画はスッキが美しい秀子に惹かれ、秀子もまた献身的なスッキに心を許していくことで、思わぬ方向に進んでいく――。

 3月3日(金)、TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー

監督:パク・チャヌク
キャスト:キム・タエリ、キム・ミニ、ハ・ジョンウ、チョ・ジヌン
配給:ファントム・フィルム
原題:THE HANDMAIDEN/2016年/韓国映画/145分
URL:『お嬢さん』

次回は<ヒロインはいつも爆睡中?夢と現実をまたぐ父と娘の愛『ひるね姫~知らないワタシの物語~』>です。
2020年の岡山県倉敷市。父と二人暮らしの女子高生・ココネは眠るたびになぜか同じ夢を見る。ある日突然、父が警察に東京へ連行されてしまい、夢と現実の中で様々な謎が浮かび上がる——。『攻殻機動隊S.A.C.』『東のエデン』の神山健治監督が手がけるオリジナル長編アニメ。