ナルシズムの極地を描く
ジェシーは出演したファッション・ショーで幻覚に囚われ、明らかに変わり果ててしまう。そこでは“ネオンドラッグ”とも名付けるべきか、フラッシュと注目を浴びるジェシーが恍惚とした表情を浮かべ、激しい点滅と漆黒の闇に身体を委ねていく。その様はモデル版『2001年宇宙の旅』とも言うべきか、ボーマン船長が未知なる世界に触れたように、ジェシーはいまだかつて味わったことのない快楽に溺れていく。
その後の打ち上げで、かつて成功をともに分かち合ったカメラマン志望・ディーンの誘いを拒否した彼女が見違えるように様変わりするのはメイクのせいか、演技のせいか。純粋で素朴な少女から“悪魔”の片鱗を見せる女へと変貌を遂げる、エル・ファニングの芝居の振り幅が計り知れない。その演技力すら女性の恐ろしさとして捉えてしまう。幼さと艶やかさが共存する表情が本作の大きな見所だ。
光を浴びると、その姿は手に取って分かるように輪郭を現す。だが、当の本人はあまりに眩しくて何も見えなくなる。モデル業界に限らず、そのズレが毒となって心を蝕んでいくのだろうか。ナルシズムの極地を描いた作品である。ここに浸ると、もはや人間として元の世界へ帰って来れないのかも知れない。
美が“悪魔”の牙を剥き始めると、そこに注がれていた愛情が姿を変えて襲いかかる。
一流デザイナーのロバートがジェシーに心を奪われ、「作り物の美しさはすぐにバレる」と言い放つ。しかし、作り物ではない美しさもまた脆くて儚いものである。
ストーリー
トップモデルを夢見て、ジョージアの田舎町からロサンゼルスにやって来た16歳の美少女ジェシー(エル・ファニング)。インターネットで知り合ったカメラマン志望のディーン(カール・グルスマン)が撮影した写真を手に、モデル事務所に足を踏み入れる。オーナーのロバータ(クリスティーナ・ヘンドリックス)に才能を見抜かれ、瞬く間にスター街道をのし上がっていく。
だが、ライバルのモデルたちは黙ってはいない。異常な嫉妬心を燃やす彼女らはジェシーを引きずりおろそうとする。やがてジェシーもまた自身の中の野心を剥き出しにし始め、美貌がナルシズムの“毒”に染まり果てていく――。
1月13日(金)、TOHOシネマズ六本木シネマズほか全国順次ロードショー
監督:ニコラス・ウィンディング・レフン
キャスト: エル・ファニング、カール・グルスマン、ジェナ・マローン、ベラ・ヒースコート、アビー・リー、クリスティナ・ヘンドリックス、キアヌ・リーブス
配給:ギャガ
原題:The Neon Demon/2016年/フランス・デンマーク・スウェーデン/118分
URL:映画『ネオン・デーモン』公式サイト
Text/たけうちんぐ
次回は<園監督にしか映せない、究極の“自我”がここに!アナーキーすぎる問題作『アンチポルノ』>です。
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