「正義の味方、悪を絶つ」その理念の行方は?

たけうちんぐ 映画 日本で一番悪い奴ら 綾野剛 中村獅童 YOUNG DAIS 植野行雄 ピエール瀧 白石和彌 稲葉圭昭 恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白 2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会

 諸星は“正義”を重んじている。図った悪事を数えると信じ難いが、彼の北海道警察という組織への忠誠心は本物だ。

 作品のタイトルが『悪い奴』ではなく『悪い奴ら』と謳っているのは、当時の北海道警察こそが本当の悪だからだろう。
それは我々の生活圏内にグループ単位で、会社単位で、国単位でそれぞれ例えることができる。
組織が一つでも嘘をつくと、その嘘を隠すために組織の中の何人もが幾つもの嘘を重ねていく。
諸星はそのうちの一人だ。

 ところが、その嘘が本当になる瞬間がある。
山辺の結婚パーティーのスピーチで流した涙は本物で、本当の友情だ。
悪は悪でも共に笑い合い、信じ合う関係を築く。
それでも、その“本当”は嘘のせいで長続きしない。
罪が積み重ねられることで仲間たちはどんどん離れていき、諸星が孤独になっていく姿にもどこか青春映画のような寂しさが表れる。

「正義の味方、悪を絶つ」――諸星が尊重していた警察という組織の理念は皮肉にも、文字通りに悪が絶たれることで悪い奴らの青春が終わっていく。

 諸星のアンチヒーローとしての佇まいは映画の世界でこそ息吹をもたらし、その生き様がスクリーンに映える。
チャカ、シャブ、セックスの三拍子。
「ヤバいもの見ちゃったかも」って感覚は最近の作品でなかなか味わえないし、このインモラルはテレビやネットに映るものではない。
そういう意味では、映画というものの存在意義に改めて気付かされる。

 諸星が信じる“正義”は、ひょっとしてそのへんに転がっているかもしれない。
組織の数だけそれは身を潜め、本作で描かれる北海道警察のように悪とは無縁の表情をしているだろう。
スクリーンにしか映らない“悪”を見逃さないでほしい。
本当の正義とは一体何なのか、その答えに少しでも近づくために。

ストーリー

 大学柔道部での腕を買われて、北海道警察に勧誘されて刑事になった諸星(綾野剛)は捜査も事務も満足にできず、先輩刑事から邪魔者扱いされていた。
そんな中、ベテラン刑事・村井(ピエール瀧)に刑事として認められる極意を教えられる。

「犯人を挙げて点数を稼げ。そのためには協力者=S(スパイ)を作れ」

 やがて諸星は村井の言う通りに裏社会との接触を図り、内通を得て暴力団組員を覚せい剤・拳銃所持で逮捕する。
功績を讃えられた諸星だが、令状のない違法捜査に暴力団側が激怒。
幹部の黒岩(中村獅童)と死ぬ覚悟で面会するが、無鉄砲な性分を買われて打ち解ける。

 その後、S(スパイ)となった黒岩と手を組んで、ロシア語が堪能な山辺(YOUNG DAIS)とパキスタン人のラシード(植野行雄)とともに拳銃の横流し、違法まがいの捜査、やらせ捜査など“悪”に手を染めていく――。

6月25日(土)全国ロードショー

監督:白石和彌
原作:稲葉圭昭 「恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白」(講談社文庫)
キャスト: 綾野剛、中村獅童、YOUNG DAIS、植野行雄(デニス)、ピエール瀧 他
配給:日活
2016年/日本映画/135分
URL: 『日本で一番悪い奴ら』公式サイト

Text/たけうちんぐ