岩井俊二監督×黒木華!嘘に溢れた現代で騙されながら生きる幸せ『リップヴァンウィンクルの花嫁』

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「嘘つきは泥棒の始まり」

  そんなことを親や先生に教えられて、幼い頃は嘘をつかず正直に生きようなんてことも思っていた。
なのに、大人になると嘘まみれ。怒っていても笑顔で取り繕い、嫌っていても「いいね!」を押す。四方八方見渡しても誰かが本音を隠し、誰かが誰かを欺く。まぁ別にそれでいいや、と諦めている。

 それでも、そこで幸せを感じることは確実にある。嘘の中で本当の気持ちに気づくことだってある。そんな嘘に溢れた現代で健気に生きる女性の、寓話とも現実とも受け取れる“嘘のような”物語です。

『小さいおうち』で第64回ベルリン国際映画祭最優秀女優賞を受賞した黒木華を主演に迎え、『リリイ・シュシュのすべて』『花とアリス』などの岩井俊二が約12年ぶりに長編実写作品のメガホンを取る。

 ただでさえ最強なこのタッグに加え、綾野剛、Cocco、原日出子、地曵豪、りりィなどといった個性的な面々が名を連ねる。まるで実在する人物のようにその世界に溶け込み、役者のセリフもセリフと感じさせない自然な喋り方の演出がさすが。
アッと驚くカメオ出演も見所の一つで、意外な有名人があらゆるシーンに登場するのも見逃せません。

まるで鏡を見てるような七海の“喜怒哀楽”

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 黒木華の魅力が眩しい。一見どこにでもいそうな出で立ちなのに、それだからこそ現代に生きる普遍的な女性を体現しているようにスクリーンに映る。

 とにかく残酷な話だ。声が小さくて、人の群れに馴染めない。目立つことを恐れて、陰でひっそりと生きている。このような害が一つもない女性に、ここまでの仕打ちがあっていいものか。
浮気の濡れ衣を着せられて行く宛もなく彷徨い、心苦しくてもがく姿が痛々しい。七海は鳥かごの中で、かごを揺らされる鳥のように、安室の手によっていとも簡単に喜怒哀楽を操られ、人生の天と地の津々浦々をさまよう。

 七海がひたすら可哀想だ。でもそのせいか、観客との心の距離が近くなる。彼女が泣けば自然とこちらも目が潤み、笑うと思わず顔が綻ぶ。まるで鏡を見ているように共感し、心の底から応援したくなる。

 鉄也の浮気を知った時の「あちゃ~」や、自分を裏切った者に対する「ちくしょ~」といったセリフがなんとも愛おしく、その親しみやすさで重苦しいムードから逃れ、全編を温かい雰囲気が包み込む。
これまでに様々な女優を魅力的に描いてきた岩井俊二監督が選んだだけある、黒木華の唯一無二の逸材っぷりが本作でたっぷり堪能できる。