靴によって楽しくない人生が、楽しく輝きだす。
靴を履くことで他人に変身するなんて、絶対楽しい。
マックスは、そんな「楽しい」という感情をどのぐらいぶりに味わったんだろうか。彼は、調子に乗って色んな人に変わる。ギャング、イケメン、金持ち、ゲイ、死人……とバラエティ溢れる様々な人生を味わっているときの表情は以前とはうって変わり、恐ろしいくらいに輝きだす。
今までずっと恋人がいなくて、友人もいない。話し相手は隣の理髪店のジミー(演じるのがまたスティーブ・ブシェミという怪しさ)だけ。家に帰ると年老いた母親の世話をして、将来の心配がのし掛かってくる。だからこそ、多くの人と出会い、色んな場所を歩いていく喜びが切実に感じられるのです。
ストーリーが進むにつれ、やがてマックスが親のために働いた行動がギャングの世界へ誘い、他人になりきることでサスペンス映画に。今まで修理してきた靴を変身アイテムとして使い、個性的なキャラたちをまるでポケモンみたいに上手に扱い始めるシーンで、コメディ映画に。
マックスだけでなく映画自体も姿を変え、今までの地味な生活が嘘のように冒険に溢れた世界を映しだします。
観る前の印象と全然違う。こぢんまりとした作品と思いきや、その正体は観ている人を絶対に飽きさせないジャンル多様なファンタジー映画だったのです。
他人の人生を生きることで、自分の人生の喜びを知る
“変身する”という突飛な設定なのに、なぜかシックリくるのは、マックスの人物描写の土台がしっかりしているからでしょう。
仕事ができて人柄も悪くないのに、孤独な人生を送っている。人並みの欲望があっても、人がいいから望みを叶えられずにいる。だからといって聖人すぎず、近所に住む美男美女カップルを羨ましがり、その美男の靴を手に入れて美女に近づこうとするという、あくどい一面もある。
マックスはどこにでもいそうと思わせる、人物描写にあるからこそ、とんでもない境遇でも共感できる。そして何より、彼が彼なりの人生を歩こうとする展開が希望を与えてくれる。