「反響定位」で聞こえるのは、胸の鼓動なのか

  自然光を利用した映像美と、立体的に反響するサウンド。全編、音響設計がとにかく見事。 右から左、上から下へと立体的に作り上げられたサウンドが本作の特徴であり、映画が映像だけでなく音で構築された芸術であることに、改めて気付かされます。

 本作には 「反響定位」 という手法を教える描写がある。それは音の反響を使って、周囲にある物の位置、距離、大きさを知る方法。実際にこのノウハウを身につけて、健常者の人たちと変わらない生活を送っている盲目の少年がいる。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと マシュー・ウォーチャス ビル・ナイ イメルダ・スタウントン アンドリュー・スコット ドミニク・ウェスト パディ・コンシダイン ジョージ・マッケイ セテラ・インターナショナル パレードへようこそ 炭坑労働者 同性愛者 LGSM パレード プライド Ⓒ ZAiR

 イアンはこの手法を用いて、初めてエヴァを連れて外の街に出る。目の前を通る車、通行人を避けながら歩く二人の姿はスリリングだ。
目が見えない分、身体を寄せ合い、肩を掴む。全て耳を頼りにしているため、互いの聴覚が研ぎ澄まされていく。
恋愛映画の描き方として斬新で、人と人との距離、その物の大きさを知る過程は哲学的にも思えてくる。

感情は最も目に見えなくて透明なもの?

 視覚を失った者同士、心を通わせるには耳を澄ますこと。
サングラスをかけて歩く二人は、互いに表情を掴むことができない。目の動きがないため、観客にも分かりづらい。 二人が言葉で、態度で、互いを知り合うしかないように、こちらも二人の感情を探り、想像する時間が多い。

 映画の世界から離れてみて、私たちはどこで相手の感情を探っているのだろうとふと振り返る。思わず目を閉じて、エヴァの感じている世界に寄り添いたくなる。そこで聞こえる“音”に耳を傾ける。

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 ここまで聴覚を意識する作品は見当たらない。映画は視覚的なものと思っていたが、どうもそうではないらしい。太陽を暖かさで感じ、雲を空気の重さで知り、恋愛を相手の息遣いで触れる。

 反響音で街を歩くイアンをまるで超能力者のように感じるが、もっと目に見えないものに注目したい。それは感情そのものである。
透明な感情を追いかけて、二人は港を目掛けてリスボンの街を歩いていく。それがまるで、恋愛の本質を探る旅にすら見えてしまうのです。