男はただ体を求める生き物で、女は……

「女の人の体に興味があっただけ」
「君じゃなくてもよかった」
「ただ、キスがしてみたい」

 ちょ、洋マジで正直すぎる。
これ、大体は男の真理であることを否定できない。洋は別にモテモテ設定でもイケメン設定でもなく、どこにでもいる一人の男として描かれているからこそ、この言葉が恵美子だけでなく多くの女性の心を蝕むのが目に見えている。

「君に興味があった」
「君じゃなきゃだめだ」
「君とキスがしてみたい」

 世のラブストーリー及びラブソングで描かれることとは真逆。
冷めた恋愛観で攻めていく洋に対し、恵美子は世のラブストーリーを求めるように洋から離れない。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと 安藤尋 市川由衣 池松壮亮 阪井まどか 高尾祥子 中村久美 三浦誠己 ファントム・フィルム 海を感じる時 男女 体 愛 メンヘラ ラブストーリー 2014「海を感じる時」製作委員会

 愛を知らずに育った彼女の切実な追求。それが無謀であることなんて彼女が一番理解している。
洋からも母からも理解されない。助ける人は誰もいない。まさに孤立無援のまま、ただ一人感情の赴くままに服を脱ぎ、裸体をさらし、抱かれていく恵美子が見ていて痛々しい。

 現代だと一言で“メンヘラ”と片付けられる行動でも、病的にも異常にも見えない。それは少女が“女”へ成長していく過程がきちんと描かれているせいか。

 かつては洋に翻弄される恵美子だったが、次第に立場が逆転していく展開が生々しい。
男子は一生男子のままだが、女子はいつか女になる。
結果、一人になってしまうのは男。“女”の大逆転勝利を見届けるのも、なかなか壮快なのかもしれません。

すべての男女関係に置き換えられる、心と体の距離

 当初は設定を現代に移すことも検討されたらしい。舞台が1970年代で本当に良かった。
携帯もネットももちろんないからこそ、男女の間に何も介さない。純然なる関係が描かれる。会う前に、互いの情報を知り得ることなんてない。
その人の身振り素振りで判断し、口と耳と目で感じる。これが恋愛なのだと教えてくれるように。

 現代だと『海を感じる前に、恵美子がタグ付けされました』とか、そんなのロマンの欠片もない。
二次元に逃げる。ネットに逃げる。今は愛の代用品としての手段が豊富にある。 しかし、70年代だとそんな逃げ場はないのです。

たけうちんぐ 映画 死ぬまでには観ておきたい映画のこと 安藤尋 市川由衣 池松壮亮 阪井まどか 高尾祥子 中村久美 三浦誠己 ファントム・フィルム 海を感じる時 男女 体 愛 メンヘラ ラブストーリー 2014「海を感じる時」製作委員会

 家と学校の往復の中で、考えるのは洋、ただ一人のこと。
肉体と肉体が格闘し、体と心の距離は反比例する。磁石のようにくっ付ければ、磁石のようにすぐに離れる。ある意味地獄に陥っても、繋がれる瞬間はまさに天国。相反する二つのせめぎ合いに、恵美子はどう対処するのか。
これは恵美子と洋だけの話じゃない、すべての男女関係に置き換えられる重要な課題なのです。