大切なのは言葉じゃない?バルフィの“人間力”が爆発
ハンディキャップがあるなんて、映画が始まってすぐに忘れる。
バルフィが周りの誰よりも楽しそうに人生を謳歌し、表情を何百個も持って街を駆け抜ける姿は、どこも不自由じゃない。むしろ自由に見える。
願えば全てが叶うようなハッピーな世界観に見えても、この映画では簡単には叶えられない恋が二つ描かれる。
その壁とぶち当たるバルフィはどこにでもいるような恋に悩む青年で、時折見せる寂しげな表情はかつて名作映画で観た映画スターのように尊大で、親しみやすいのです。
バルフィはシェルティを“冒険”に連れ出す。
資産家との婚約指輪がまるで手錠のように思えるシェルティにとって、それは人生の解放だったに違いない。指輪を外し、代わりに草の葉を結ぶバルフィ。ロマンチックには言葉も金もいらない。
初めてキスを交わした二人に待ち構えているのが別れでも、シェルティが安定した未来を選んでも、泣き出す彼女にバルフィは瞳で「笑って」と伝える。
バルフィの得体の知れない人間力を目撃する151分。彼のパワーから学べることがとにかく多いのです。
バルフィから眺める世界は、まるでサイレント映画?
本作の大きな特徴は世界中の名作映画のオマージュ。映画ファンなら「あっ!」って驚くシーンが尽きないのです。
『雨に唄えば』をはじめとする古き良き時代のアメリカ映画から、『きみに読む物語』、『アメリ』、『Mr.ビーン』、『プロジェクトA』、『菊次郎の夏』といった世界各国の近年の作品まで網羅。作品全体に満ち溢れている映画愛は、愛情たっぷりな性格のバルフィに似合っています。
そして何より、サイレント映画を再現している点は絶対に無視できない。
チャールズ・チャップリンやバスター・キートンなど名作サイレント映画のオマージュの連続。耳にハンディがあるバルフィから眺める世界があたかもサイレント映画のように音もなく静かで、味わい深いものになっている。
かつて多くの人々に愛された、言葉を一切発しない映画スター。そのキャラクターを受け継ぐように、身振り素振りでシェルティとジルミルを魅了するバルフィ。
名作映画の数々がまた新たに映画を作っている、その事実に感動を覚えてしまうのです。