恋愛小説をテーマに男女間の行動について分析『突然のキス 恋愛で読み解く日本文学』

 著者は宗教人類学者の植島啓司さん。植島さんは本書にて、自分の恋愛体験と照らし合わせながら、日本の有名な恋愛小説の謎を解明するという試みをしています。

 植島さんは、学生時代に男2人、女2人で同棲をしていた経験があります。
ある日、植島さんが帰宅すると、遊びに来ていた若い女の子がお酒を飲み過ぎてアルコール中毒で身体を痙攣させていました。
同居人たちが呆然とする中、植島さんは彼女を風呂場に連れて行き、口に手を入れ全部吐かせ、ベッドに寝かしつけました。
翌朝、植島さんは彼女が起きる前に家を出たそうです。
あとで聞いた話によると、同居人から話を聞いた彼女は植島さんの行動について「ふ~ん」と言っただけで、何食わぬ顔で帰ったというのです。

 相手が自分のことを覚えていないこと、そして、自分を認識していないことに対して割りきれない気持ちになり、このときのことを、川端康成の『眠れる美女』と似たシチュエーションだったかもしれないと綴っています。

 『眠れる美女』の舞台は、睡眠薬によって深い眠りにつく少女たちがいる宿。
そこへは、すでに男性ではなくなった老人たちが、少女たちと添い寝をするためにやってきます。
物語は、主人公の江口老人の体験を通して、男性の生理を喪失してもなお女体にすがりつく老人の無残さ、そして、いくら触れたとしても自分とは認識してもらえない人間の切なさが描かれています。

 植島さんは「人を好きになるということは、相手と触れ合いたい、相手と永遠に一緒にいたいと思うことである」と書いています。
しかし、肌に触れることができようと、身体という箱に閉じ込められている限り、相手の心には到達できないという苦しさが恋には付きまといます。
『眠れる美女』は、江口老人のことだけではなく、生きて恋をする人間の孤独を物語っているのです。

 この他にも、金原ひとみの『蛇にピアス』や藤原伊織の『テロリストのパラソル』など全21の小説を取り上げ、男女の間の謎について追及しています。

あなたも、自分自身のなかの解明できない恋愛の行動、または、今までの人生のなかで胸に引っかかっている男女間のエピソードがあったなら、小説と重ね合わせて読み解いてみてください。
なにかの気付きかがあるかもしれません。

書名:『突然のキス 恋愛で読み解く日本文学』
著者:植島啓司
発行:筑摩書房
価格:¥882(税込)

Text/Yuuko Ujiie