生活のために働き、趣味を楽しむことも立派なこと

まず、彼の趣味とご自身の趣味を比べてしまうことについて。
あなたは、“趣味”をどういった意味で捉えていますか?
“趣味”とはそれに関する造詣が深く、誰にも負けないくらい技術的にも秀でていて、時間もお金も労力も惜しまず、長期的に取り組めている……なんて、なんだかとても高尚で、選ばれた人間以外は堂々としてはいけないものだと思っているように感じたのですが、いかがでしょうか?
もう少し、あなたは“趣味”を広い意味で捉えたほうがいいと思います。
以前、「結婚を考えている彼の趣味が女性声優で、ライブに行ったりグッズを買ったりしているのが許せない」という女性からの相談でもお話ししましたが、趣味というのは本来、マナーを守って周囲に迷惑をかけず、自身の生活レベルに合った範囲内で自分のQOLを高めるためのツールのはずです。
だから、本人が楽しいかどうかが一番大事で、他人にとって素晴らしいかどうかは関係ないんですよね。

たしかに、彼はとても立派だと思います。
趣味を仕事にするなんて限られた人間しかできないことですし、社会的にも認められているのを目の当たりにしていれば、「わたしの趣味なんて大したことないよなぁ…というかこれを趣味と言っていいのかどうか…」と自信を失くしてしまうのも、無理はないかもしれません。
でも、たとえ好きなことじゃなくても生活のために仕事をして、空いた時間や休みの日に趣味を楽しむのだって、同じくらい立派ではないでしょうか。

わたしの趣味だって別に仕事になっていません。
こうやって文章を書く仕事をしていれば、さぞ日ごろからたくさん本を読んで……なんて思われるかもしれませんが、全くそんなことはない毎日を送っています。
もちろん本は読みますが、寝食を犠牲にするわけでもなく、好きな作家さんが新刊を出したり仕事でいただいたりしたら読む程度。
散歩や温泉、お酒が好きですが、別にそれを突き詰めているわけでも詳しいわけでもなく、散歩はただ歩きたいときにひたすら歩くだけ、温泉は息抜きに行くだけ、お酒も飲みたいときに飲みに行くだけ、そんなもんです。
そのときに思いついたことを文章にすることはありますが、基本的には自分が楽しいと思えるものを、楽しいからやっているに過ぎません。
別に人に多くを語れるわけでも、仕事に役立っているわけでもありませんが、自分自身が楽しめているのだから、立派な趣味だと思っています。

「あの人のようにならなくちゃ」はしんどいだけ

ここ最近、SNSを見ていると「趣味や好きなことを仕事にして生活することこそがかっこいい」「仕事で自己実現をしなくちゃ」「仕事でキャリアアップして認められたい!」と思っている人が多いように感じます。
もちろん、夢や目標があってそれに向かって努力している人や、好きなことを仕事にしている人が立派だというのは大前提です。
ただ、誰かが称賛されること、傍から見てキラキラしているように見えることから、自分のコンプレックスを刺激され、自己否定に走ったり、自分もそうならなくちゃと焦ったりするのは、ちょっと違うのではないでしょうか。
「あの人のように自分もならなくちゃ」「自分も誰かから羨ましいと思われなくちゃ」ってプレッシャーを感じるのって、わたしはマジでクソ喰らえだと思ってるんですよ。
行動や努力の理由が「そっちのほうが自分が楽しいから」ならいいんです。でも「誰かと比べて自分の人生は劣っている気がするから」が理由だと、きっと息は長くは続かないし、ただしんどいだけ。
夢を叶えて好きなことを仕事にしている人も偉いし、好きなことではないけれど生活のために仕事をしているのも偉い。
寝食を忘れてしまうほど熱中できる趣味を持っているのもかっこいいし、毎日規則正しく生活しているのもかっこいい。
どちらか一方と比べてダメだとか、向上心がないとか、そんなの絶対にないんです。
両方ともそれぞれ偉くてかっこよくて素敵! それでいいのではないでしょうか。

そもそも、広く浅く物事を楽しめていることって、そんなにダメでしょうか?
趣味の種類や知識量、どの程度突き詰めているかなんて、どうでもいいと思うんですよね。
たしかに、ひとつのことを誰にも負けないくらい突き詰めていれば、彼のように仕事につながることもあるかもしれません。
でも、広く浅く物事を楽しめているということは、それだけ会話の引き出しが多く、人と交流をするときに取っ掛かりをたくさん持っている、というメリットもありますよね。
仕事には直接的に活きていないかもしれませんが、自分の人生や人間関係に活きているのですから、とても素晴らしい長所だと思いますよ。

何かひとつのことに熱中できるというのは、その人自身の努力もあるとは思いますが、集中力や探求心などの特性、置かれている環境や経済状況なども関わってきます。
趣味にどれだけ熱中しているか、それが仕事につながっているかなどの表面的な部分だけでなく、その内側にある“比べたところでどうしようもないこと”をきちんと知ったうえで、自分と他人を区別できるようになったほうがあなた自身も楽になるのではないでしょうか。