この肉体がこの世界に漂っている

 それから私は心ではわからないことを、体に確かめるようになりました。いま、何が必要で、何を食べたいのか。休みたいのか、動きたいのか。私がこうすれば良いと思い込んでいることでなく、その時々に体が必要としているものに感覚を澄ませるようになったのです。

 特に私は食事について、いい記憶を思い出したくて飲食する節がありました。あの時、これを食べて、飲んで、心が晴れたからもう一度口にしたいという風に。つまり思い出を食べていたのです。
でも、ちょっと立ち止まって、いま体が欲しているものだけを食べていたら、少しずつ体重が落ちてきました。生まれて初めてのダイエットです。

 きっと私はこれからも、ほかの女の子みたいにすごく痩せたり、格好良くなることはないでしょう。でも自分の自然な体型でいることが、心にも良い予感がしています。

 私の体は、私から最も近く、最も遠いところにあります。体の感覚に心を澄ますようになってから、一生自分では見ることのない血液の流れや、細胞の動きを想像するようになりました。きっとこの体の中にも、私の目には見えない世界が広がっているのだと思います。
目に見えないものが遍在するこの世界と、私の体内に広がる目に見えない世界。そのふたつが繋がっているところを想像すると、世界が私の体に浸透してきて、いまの生活が肉体ごとこの世界に漂っているように感じられるのでした。

Text/姫乃たま

次回は<私たちはいつまでもあの「おばけスタジオ」で笑っていた>です。
姫乃さんにとってかけがえのない思い出の場所、「おばけスタジオ」。今回はそんな素敵で、少し切ないエピソードについて綴って頂きます。光り輝く素敵な思い出は、例えその存在がなくなってしまったとしても、心の中で永遠に生き続けているのかもしれません。