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  • 2017.08.29

「SWIMMER」の閉店…思い描いていた未来ではない今に気恥ずかしさを覚える

「大人になったら迎えに来るからね」と幼少期から憧れ続け、好きな人と好きなものに囲まれた生活を夢見ていた姫乃さん。大好きだった雑貨屋SWIMMERの閉店がきっかけで、その夢が実現できない想いが溢れます。

 自分を好きになってくれない人や身勝手な人ばかり好きになり、不安定な恋愛関係に陥ってしまう女性たちへ。
「私は最初から私を好きじゃなかった」――自己肯定感の低い著者が、永遠なるもの(なくしてしまったもの、なくなってしまったもの、はなから自分が持っていなかったもの)に思いを馳せることで、自分を好きになれない理由を探っていくエッセイ。

永遠なるものたち004
「SWIMMER」

姫乃たまさんのご自宅にある「SWIMMER」グッズ
姫乃たまさんのご自宅にある「SWIMMER」グッズ

 悲しい気持ちになりたくなったので、「SWIMMER」に行ってきました。

「SWIMMER」というのは雑貨屋さんの名前で、少女趣味な文房具や靴下、宝石みたいな指輪なんかが、こどものお小遣いでも買えるような値段で売っています。女の子にとっての駄菓子屋さんみたいなお店です。ほとんどの商品がパステルピンクや水色や、ぽわんとした可愛らしい色でできていて、うさぎや猫などのモチーフが、きらきらとしたレースやリボンと一緒にあしらわれています。

 小中学生の時にはお店に入るだけでずいぶんとときめいて、高校生でアルバイトを始めて、大学に進学してからも意気揚々と文房具を揃えにいきました。でも食器やバスマットや、ポットには手を伸ばすことができませんでした。以前は文房具よりも高価だったので躊躇していたのですが、お金を持てる年齢になってからは、どれも家には家族で使っているものがあったので、せっかくならいつか自分が結婚して家を出る時に買い揃えようと思っていたのです。

 生まれた頃から近所に晴れ着屋さんがあるせいか、結婚は私にとって揺らぐことのない華やかな幸福の象徴です。

 お店の前を通るたびにいつも、ショーウィンドウのウェディングドレスに目を奪われました。きれいなお姉さんのマネキンが着ているドレス。白いやつだけじゃなくて、うすいピンク色のフリルがいくつも重なったものや、デコルテにひまわりがあしらわれた黄色いドレスなんかが飾られていて、こどもだった私はそれを見ながら何度も、「私が大人になっても残っていてね」と願ったものです。

「SWIMMER」の食器やバスマットにも、数え切れないくらい同じことを思いました。
駄菓子屋さんでおもちゃを眺めるこどものように、「いつか大人になったら迎えに来るからね」という気持ちでいたのです。

SWIMMERで幸せな未来を馳せていた

 いつの間にか「SWIMMER」での買い物は、好きな人と好きなものと一緒に暮らす未来に思いを馳せる時間になっていました。しかし、あれからショーウィンドウのウェディングドレスが何回、何十回入れ替わっても、私はそのどれにも袖を通すことがないまま、「SWIMMER」はもうすぐ閉店していきます。

 悲しくなるのは嫌ですが、わざわざ悲しい気持ちになりたい日があったので、「SWIMMER」に行ってきました。

 いま、あの頃思い描いていた将来にいるのに、結婚もひとり暮らしもしてないね。気恥ずかしいようなバツの悪い気持ちは、パステルカラーの食器たちに気づかれてしまいそうでした。

 家にもある食器や掃除用具を両手一杯の買い物袋に詰め込んだ帰り道。猫のせっけんボトルや、うさぎのケースに入ったカーペットローラーを待って帰る代わりに、いくつものときめいた時間たちが、なくなっていくお店に閉じ込められるような感覚がしました。それは悲しくて、いい気持ちでもありました。

Text/姫乃たま

次回は<いつかの「私」が願っていた夢を、叶えた「私」は願ったことすら忘れている>です。
貴方は、以前自分が「夢見ていたこと」「欲していたこと」を覚えていますか?何故私たちは、夢が叶うと、叶うことを切に願っていたあの頃の気持ちを忘れてしまうのでしょうか。もしかしたら、私たちの気づかぬうちに叶っている夢もあったのかもしれません。今回は姫乃さんが「夢と欲望」について綴ります。

ライタープロフィール

姫乃たま(ひめの たま)
地下アイドル/ライター
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