“永遠なるもの”に思いを馳せる旅
私はずっと“あるもの”よりも、“ないもの”のほうが気にかかっていました。これらの、なかったもの、なくなってしまったものは、永遠です。“あるもの”は、いつかなくなってしまいますが、“ないもの”は、永遠に失われているからです。
そして、どういうわけか私は、この“永遠なるもの”に胸を締め付けられるような魅力を感じています。
「それって不倫とか、だめな男を好きになる典型じゃん」と、友人は笑います。
そしてたしかにそれは、その通りなのです。
だめな相手を好きになる人は、自分を大切にしてくれる人よりも、自分の価値をわかってくれない人に魅力を感じます。自分が好きじゃない自分のことを好きだと言われても、相手を価値のわからない程度の低い人だと思ってしまうからです。
不倫をしてしまう人は、相手が持っている、自分が介在してはいけない(あるいはできない)家庭に憧れています。しかし相手が自分のものになった瞬間、自分が入ることのできない家庭が消失してしまうので、魅力を感じなくなってしまうのです。
このように自分を好きでいられないと、生きていくうえで余計な苦労が多くなります。
幸せの形はある程度固まっていますが、寂しさや不安や心許なさは実に個性的でさまざまな形をしているものです。「永遠なるものたち」もまたさまざまな形をしています。
どうしてそれらに心惹かれるのかは、自分を好きでいられない理由を知ることに繋がっていくかもしれません。
この連載では、ひとつひとつの“永遠なるもの”に、じっくりと思いを馳せていきます。どれもとっても些細な、とるにたらないものです。しかし、連載をしていくうえで文章が重なっていき、これらが「永遠なるものたち」になった時、見えてくるものがあると予感しています。
どうぞ、永遠なるものに思いを馳せる旅に付き合っていただけたら嬉しいです。
さて、大人になったいま、薄っぺらい水色の空を見る機会も増えました。原稿が明け方に書き終わった時だとか、夜通しお酒を飲んでから店を出た時だとか。相変わらず早く起きる朝は少ないのですが、夜はますます眠らない宵っ張りになったのです。
しかし私は何度でも、あの空を見ると嬉しい気持ちになります。夜を自由に遊べるようになって、なんでもできそうな大人になった私に、失われゆくものがあることを、毎日教えてくれるからです。
Text/姫乃たま
次回は<私のいない場所に憧れる…知らない家の窓灯りが好きな地味な女の子>です。
自分だけがいない世界、自分のいない朝の存在を求め、心躍らせた子供時代の姫乃たまさん。大人になった今もその憧れは続いていて…。自分のことが好きになれない理由を求め、それを構成する要素を探すエッセイ。
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