メイクで人間は、変わるから。
リアルに涙ぐみながら、美容部員としての誇りのこもった声でさやこは続ける。
「劣等感まみれの私を、好転させてくれたのがメイク。私の人生を大きく変えたのは、男の存在以上にお化粧なんですよ」
ホルモン屋さんに来る前、実はご自宅にお邪魔していた。整頓された広いおうちは、メイクのための部屋かのように色とりどりの化粧道具が大量に、そして計算され尽くして並んでいた。
雑誌を見ながら新しいメイク法を研究するのが最も充実した時間だという。美容部員としてお客さんをキレイにするために努力を惜しまない彼女の原点は、自分自身がメイクで変わったことによる。
「大学入って化粧を始めて、男からも女からも認められた。自分への興味も湧いてきて、そうしたら他人への興味も湧いてきて。どんどん変わっていったんです」
化粧をすることで、男からはもちろん、なにより“クズ”と思っていた女たちにも認められるようになった。「女性は、綺麗になろうと努力をしている女性に優しいから」とさやこは言うが、実際そうだろう。
化粧で自分が大きく変われたさやこは、大学を卒業したのちに美容部員になることを選んだ。
「キレイになったら人生は絶対得じゃないですか? でもキレイになりたいなんて、みんな恥ずかしくて簡単には言えない。その思いを私は大切に汲み取りたいんです」
キレイになれば人生変わっていくのは分かっていても、それを口にすると今までの自分を否定するような気がして、認めるのはなかなか難しい。
「どんなに綺麗事言っても、やっぱり女はキレイかどうかで人生変わるじゃないですか。女は、キレイじゃなきゃダメってされてしまってるんです。キレイは絶対、得なんです」
外見コンプレックスにずっと悩み、少しでもキレイになりたいと奮闘し続けた彼女の、その言葉はものすごく重い。
彼女は“キレイであること”にこだわりすぎだ、と思うだろうか。でも私は、「キレイである方が得」という彼女の言葉に、思わず頷いてしまう。頷くに値する経験を、たくさんしてきたように思う。
生まれ変わったら美人になりたいけど
そうして彼女は今、毎日毎日店頭に立ち、お客様にメイクを施し続けている。
「私は、女の人がどうやったらキレイになるか分かるんです」
給料も低いカツカツな生活だけど、キレイになりたいという女性の思いから逃げたくない、とさやこは言う。
「メイクで絶対、周りの評価は変わるんです。そうしたら、自分も絶対変わるんです。変わりたいって思う心ってすごく素敵だから、私はそれをお手伝いしていきます」
酒まみれではあるけれどあまりにもかっこいいその口調に、そうだそうだ! と相槌をうち、2人で浴びるように飲んだ。
美人には生まれなかったのにケナゲに生きる自分たちを「偉いねえ」なんてお互いに褒めちぎった。そしてそのあとに「生まれ変わったら美人になりてー!」なんてかっこ悪いセリフを、2人でアホほどに繰り返した。今の自分が愛おしい気持ちも本当だし、でも美人が羨ましいと思う気持ちも本当だ。
さやこちゃん、24歳、美容部員。自分のコンプレックスに向き合い、コンプレックスを持つ自分を認め、強く生きている女の子がいた。
本当なら彼女の心の奥を覗くのが私の仕事なのに、あまりにも飾り気のない等身大のさやこは、何も隠していないように映った。素直にコンプレックスを感じ続け、それこそを日々の原動力にし、「キレイになりたい女性の力になりたい」と語る眩しい姿があった。
こちらの連載、まだまだ続きます。次回は群馬県で働くキャバ嬢に、話を聞きに。
どれだけ自分のコンプレックスと向き合って、あなたは生きたいですか?
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Text/舘そらみ
次回は<「歳とる前にマジ死にたい」セックス好きな20歳キャバ嬢が今を生きる意味>です。
「私ね、セックスが好きなんですよ。ただ純粋にセックスが好き」と語った、キャバ嬢ミユちゃん。取材後3日間は落ち込んでしまうほど、彼女の生き方は人も世界も、そして自分を信じてない。自分に興味がない。「価値がある今だけ」をただセックスと酒で生きている。脚本家・舘そらみが本気なやつらにインタビューする本企画、今回はキャバ嬢ミユちゃんに迫ります。