「私が欲しいのはモノじゃなくて…」/紛れもなく10代だった vol.4

紛れもなく10代だった さえりさん mariadelajuana_1

 塾での自習を終えて帰ろうとした瞬間、マサルに「あ」と呼び止められた。
白々と光る蛍光灯のした、教室の中心で二人は向き合い、サチはマサルの次の言葉を待つ。

 ポケットに手を突っ込んだマサルは「これ」とぶっきらぼうに手を差し出す。その手のひらから出てきたのは可愛いハイビスカスのストラップだった。

 目をぱちくりさせて驚いていると、マサルは続けて「この前、みんなで遊びに行ったから」と言った。マサルが、わたしのために、お土産を。

 彼の話によると、クラスメイト男女6人で隣の県にある遊園地に遊びに行ったのだという。その遊園地はさびれていて、特別に愛されるキャラクターもいない。
けれど田舎者の中学生たちが遊びにいくにはちょっとした旅行くらいの高揚感があった。

「で、なんか、お土産買いたくてさ」とマサルは下を向いて鼻をすすった。黒の学ランの袖は少し短く、日焼けした腕が覗いている。

「あ、ありがとう……」
小さな台紙の上でゆれるハイビスカスのストラップは、花がいくつも重ねて束ねられていた。淡いピンク色が何層にも重なるそれは可愛らしく、ストラップが大量につけられたサチのスクールバッグにもすぐに馴染みそうだった。

 マサルが、わたしのために、お土産を。
その言葉を何度か頭の中で繰り返していると「気に入らなかった?」とマサルが聞く。

「ううん、嬉しすぎて。……すぐ付ける!」とストラップの入ったビニール袋をバリッと開けると、マサルが「ほんと?」と小さく喜ぶのがわかった。はやる気持ちでスクールバッグの取っ手にくくりつけよう、とした時、マサルが口を開く。

「そうだ、あともうひとつこれも」

 いかにも「ついでに」という口調で差し出されたのは、これまたストラップだった。黒の皮でできたそれは端が茶色の糸で縫われており、お世辞にも可愛いともイケてるとも言い難い代物だった。どちらかというとお父さんへのお土産という感じ、とサチは一瞬思う。

「ふたつもあるの……?」