「そう。さっきのハイビスカスは、同じクラスの女子に選んでもらった」

 ぴたりと動作が止まる。

「え……?」
「いや、おれ、女子のものとかわかんないから。で、こっちはおれが選んだやつだから、いちおう

 左手に握ったハイビスカスのストラップが、手の中でぐらぐらと揺れるような気がした。
教室の真ん中に二人で立っていることが急に滑稽に思え、泣き出しそうになる。
なんで、そこにいた女子が選ぶの。それはその子が好きなものじゃん。その子はわたしじゃないじゃん。
可愛いストラップなら自分で買いに行く。遊園地まで行かなくても、近所のショッピングモールで自分が好きなものを買うのに。

「でもよかった。俺が選んだやつより、そっちのが似合いそうだし」

 マサルはサチのスクールバッグをじっと見つめ、うんうんと小さく頷いている。
その様子を静かな気持ちで見つめ、自分でも説明がつかない悲しい気持ちが胸を覆い隠すのがわかった。
ハイビスカスと黒皮のストラップを交互に見つめる。さっきまで可愛いと思っていたハイビスカスが急にチープな作りに見えた。
そうしてサチはようやく言うべき言葉を見つける。

「でも、わたしこっちの方が好き」

 ハイビスカスのストラップを丁寧にビニール袋に戻し、マサルにもらった黒のストラップを鞄にくくりつける。ゴテゴテとしたストラップの中で、黒皮は妙な存在感を放っている。

 マサルは「え、そうなの?」と驚いたあとは何も言わなかった。サチもまた、何も言わずにストラップを眺めた。

 次の日、親友のミカが「え、何このストラップ」とマサルがくれたストラップを指差した時もサチは臆さず「すてきでしょ」と言えた。
実際、サチにとってそのストラップは他のどんなものよりも輝いて見えた。
可愛いストラップも好きだけれど、これはこれで素晴らしい。
黒で渋さがあって上品だし、皮で作られているところも大人っぽくていい。
それになによりこれがひとつカバンにあるだけで、カバンについたいろいろなものがグッと引きたつようにも見える。

「えー、そう?」とミカが怪訝な顔をしている間じゅう、サチはにこにことしていた。

 数年後、サチは実家でそのストラップを見つける。引き出しの奥から出てきたそれは、やはりお父さんへのお土産がふさわしいような佇まいだった。
なぜこんなに黒皮のストラップが愛おしかったのか、少し考えてサチは携帯を取り出し、マサルに連絡をする。

「これ、覚えてる?」