「一番好きなものを仕事にしてはいけない」「一番好きな人と結婚するとうまくいかない」って話、聞いたことありますか?
わたしは、何度か人から言われたことがあります。将来の夢を語った時や、恋人と別れてショックを受けている時、いさめるように、そして慰めるように、なぜかしたり顔でこの論を取り出してくる人がいた。
なぜなのか。だって、誰だってできることなら、一番好きな人と結婚したいし、一番好きなものを仕事にしたいじゃないですか。それを最初からわざわざ二番目を選べって言われても、「なぜ?」と疑問を抱くのは、当然のこと。
しかし、この論を唱える人は、もっともらしく言うのです。
「『一番好きな人と結婚するとうまくいかない』のは、一番好きな人が、結婚生活に向いているとは限らないから」
「『一番好きなものを仕事にしてはいけない』のは、仕事はお金を稼ぐことであるがゆえに、楽しいことばかりではない。ゆえに一番好きなものを仕事にすると、嫌いになってしまう不幸がある」
一番好きな「モノを書く」を仕事にして
それから二十年ほど経ち、ありがたいことにわたしは、「モノを書く」という、一番好きなことを仕事にしています。好きなことだから、徹夜もできるし、旅先でもパソコンを開く。
三年ほど前に亡くなった祖母の葬式に向かう新幹線の中でも、原稿を書いていたけれど、「葬式に向かってる道中にも、仕事ができるって最高~!」と思っていました。どんなに過酷な締め切り地獄に見舞われても、切り抜けられてきたのは、ひとえに「一番好きなこと」だからだと思っています。
ちなみに原稿を書くことの次に好きなことといえば、酒を飲むことですが、原稿を書くことと違って、酒については、誰とどういうシチュエーションで飲んでも楽しいというわけではない。限定条件付きの好きなのです。ゆえに、二番目に好きな飲酒を仕事にしていたら、つらかったのではないかと思います。
ではもうひとつの「一番好きな人と結婚するとうまくいかない」はどうなのでしょうか。独身時代、好きな男性とどうしてもうまくいかずに、自分を好いてくれる人と付き合ったこともあります。「付き合ってもいい」と思ったくらいだから、そんなに嫌いなわけではなく、でも「一番好き」ではない。
そういう相手と付き合うことは、嫌われるのが怖くないから気を遣わなくていいし、さして好きではないからかっこつけなくていい、好かれたいとも思っていないので、可愛い子ぶらなくていいという意味でとても楽でした。
しかし、同時にいつもイライラもしていました。「お前は、この態度の悪い女の、いったいどこに惚れているんだ」と。そして、好きで好きでたまらない相手と付き合っている女友達が、恋人の言動に一喜一憂している様が、羨ましくて妬ましくもあった。そういう感情を持つ自分にさらにイライライライラ……。
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