なぜ彼とセックスしたくなかったのか

 そうはいっても、いつまでもはぐらかし続けられるわけではありません。そこでわたしが次に取ったのは「ベロベロになるまで酒を飲む」という手段です。
結論から言うと、この方法は成功しました。酔うと性欲も増すし、抵抗感も薄れる。相手の男性は「また今日もそんなに飲んで」と呆れていましたが、会うとひらすらに飲み続けていました。

 けれども、進んでセックスをしたくないからといって、決して彼のことが嫌いなわけではありませんでした。むしろ、きちんと好きでした。

 なのに、なぜ彼とセックスをしたくなかったのか。おそらくわたしは、彼の身体が嫌だったのです。それまで嫌々セックスをしてきた、中年男性の体。彼は年齢の割にはお腹も出ていなかったし、どちらかといえば「かっこいいオジサン」の部類だったと思います。それでも、やはり若い男性とは違う肌のゆるみや張り、枯れたような匂いが、嫌な記憶を呼び起こす。好きじゃないこと、嫌なことを、自分の気持ちに蓋をして無理やりし続けると、その後、思いもよらない形で皺寄せが来るのです。

 けれども、当時のわたしは、自分のしてきたことに、ひとつも後悔を覚えたくありませんでした。だから、彼とセックスしたくないこの感覚が、お金を引き換えに見知らぬ中年男性とセックスをしてきたことの後遺症のようなものだと薄々わかってはいても、それは絶対に認めたくないことだったのです。

――次週へ続く

Text/大泉りか

次回は<同い年の裸の女の子を撮るとき感じた気まずさ…その理由が今ならわかる>です。
ブラック企業の編集プロダクションで働いていた、新卒当時の大泉りかさん。風俗店のwebサイト制作というルーティンワークの退屈な仕事のなか、唯一やりがいのあった仕事は風俗嬢のグラビア撮影のプロデュース。しかし、店舗に出向いて裸の女の子を撮るのは居心地の悪い気まずさがありました。いま振り返って分かるその理由とは?