人前で裸を晒す自由

 その月花さんの経営しているバー『ナノハナ』は、定期的に(わたしが脱ぐことになった)SMのイベントが開かれたりしていて、ふつうのバーに比べると、ずいぶんとフェティッシュな色合いは濃かったけれど、しかし、SMバーというわけでもなく、気楽にカジュアルに飲める店でした。最初の一杯だけチャージ込みで千円。二杯目からは五百円から飲める安心価格で、客層は、風俗で働いている女のコやストリッパー、アダルトグッズショップの店員や、AVを撮っているという男性、エロ本の編集者などの、いわば“ギョーカイの人たち”と、月花さんを慕ってやってくるSM趣味を持った男性が多かったと思います。

 ハプニングバーのような、非日常なエッチを楽しむ雰囲気ではなく、むしろ“シモのこと”はそこに集まる人々の日常で、ゆえに、当然のことのように「あのオジイサンはうんこ食い」だとか「アナルにワインのコルクが入って出ないどうしよう」とか、そういう会話がされているこのバーは、二十歳そこそこの女子大生には刺激的かつ、その雰囲気はとても好ましかった。というのも、わたしには、当時から、妙にかっこつけというかサブカルくさい嗜好のところがありまして、「おしゃれに性を楽しむ」というのが、気恥ずかしくて仕方がありませんでした。なので、ラグジュアリーとかスノッブとかを排除した、酔っ払いだらけのこのバーが、ものすごく、しっくり来たのです。

『ナノハナ』に頻繁に出入りをするようになると同時に、わたしは時折、イベントに誘ってくれた縛師の方のSMショーの相方――M女――として、ステージに立つようになりました。回数を重ねていくうちに、最初は「最近よく来る女のコ」だった周囲の認識が、やがて「M女やってるコ」として認知されるようになっていったのですが、それはイコールで「脱げる女のコ」だと認められることでもありました。

 事務所には所属しておらず、気軽に声を掛けられて、安いギャラで脱げる女のコというのは、重宝されるのか、そのうち、SMショーのM女だけではなく、いろんな場所に呼ばれるようになりました。脚フェチビデオのモデルやボディペインディングのキャンパス、キャットファイトにスナックでの野球拳要員。少し前まで、ただの女子大生だったはずが、気が付けば、東京のド真ん中、多くの人の前で素っ裸を晒している。それは、とても自由なことに思えました。

 そこに、表現欲や自己顕示欲、特権意識が少しもなかったとは言えません。けれども、そこにいるのは、そういう女のコたちばかりでした。だから、わたしだけが特別だと思っていられるわけでもなかった。そういうことを含めても、そこにいたかったのは、わたしが生まれて初めて知った「性に自由」な場所だったからです。