その場の雰囲気だけで、できない約束をする男はクズだ

 それからしばらくして、わたしはものすごいマリッジブルーに罹った。将来を考えても、ひとつも楽しいことが想像できない。
親の前で「わたしは誰よりも不幸だ」と泣いた。セックスレスだったのをずっと我慢していたが、「ここで我慢をするということは、一生セックスなしで生きていくということだ」と思い、浮気もした。

 それでも彼と別れなかったのは「2年付き合ったら結婚」の言葉があったからだ。結婚を前提としてこんなに長く付き合ったのだから、簡単に別れてはいけないと思っていた。

 しかし、結局のところ、その彼とは結婚に至らず別れることになった。

 別れた後に「2年付き合ったら結婚」という言葉にずっと縛られていたことに気が付いた。
わたしは本気にしていたものの、彼にとっては、そんな言葉は雰囲気で言っただけだったのではないか、とようやく理解した。

 結婚の時期を決めた時、わたしが感じた“腑に落ちない気持ち”は「彼のほうから結婚を乞うてきたはずなのに、なぜか今は、わたしが急かしている」という図式に抱いたものだったと思う。

 今の夫もたまに、そういうふうに、うかつに、その場の雰囲気で発言することがある。「今日の夜、飲みに行こうか」とか「あとでセックスする?」とかそういう誘いだが、たまにそれを、しらっとバックれようとすることがある。

「あれ、時間なくなっちゃったな」と悪びれる様子もなくスルーの体勢を取ろうとする時、今のわたしは烈火のごとく怒る。
「期待させんなら最初から言うな」「いまひとつ信頼を失った。失った信頼を取り戻すのがどれだけ大変かわかっているか」等の言葉を浴びせかけることにしている。
それは夫をクズにしたくないからだ。出来ない約束はしない、約束をしたらきちんと守る。人間として最低のことが出来ない男はクズだ。

…次回は《彼の浮気を知りたい女、知りたくない女、そして「気がつかない女」》をお届けします。

Text/大泉りか