「みんなと遊んだほうが楽しいと思います」
はっとさん(東京都)
エピソード:
小学5年生のとき。
バレンタインの翌日の下駄箱にハート形のチョコレートと手紙が入っていました。
「ハート形だし、いくらか気はあるんじゃないの!?」と期待して手紙を読んだら、
「これは義理チョコです。よかったら食べてください。4年生のとき、はっとくんがポートボールでオウンゴールして悔しくて泣いちゃったとき、怖くて慰めてあげられなくてごめんね。
あと、休み時間は外ばっかり見てないで、みんなと遊んだほうが楽しいと思います。それでは」
と書いてありました。
きっとこの子は僕のこと好きなんだろうな、でもこれが本当の優しさなら優しさなんて要らない、と子どもながらに思いました。
手紙に名前はなく、いまだに誰がくれたのかわかりません。
はっとさんはきっと、母性本能をくすぐるタイプだったんでしょうね。
小学生なのに妙に母性が強い女の子、そういえば僕の子どものころにもいました。ランドセルしょってるのにどこか「二児の母」の貫禄がある子。「熟女系少女」と名づけましょうか。
思春期、ましてや小学5年生でそのタイプの優しさに愛を感じろというのは酷。男子って、いや、女子だって、ドラマに出てくるような甘い恋愛を求めてしまうものです。
それはそうと、「これは義理チョコです」とあえて書いてあったりするところに、この女の子の遠慮がちな乙女心を強く感じるのは、深読みがすぎるでしょうか。
「私なんか、ストレートに『好き』と告白しても気持ち悪がられるに決まってる。だから匿名にして、好きという気持ちもできるだけ隠して、彼が幸せになるためのアドバイスだけこっそり伝えておこう」
みたいな、恋に自信のない子に特有のねじれ。ああ、なんといじらしい。
はっとさんが一緒に送ってくれた短歌は、
ほんとうのやさしさなんていらないよ ぐじゃぐじゃにあまいあまいシロップ(はっと)
という素敵なもの。でも、はっとさんの心よりも、この匿名の熟女系少女の心に隠れる怨霊を強く感じとってしまったので、今回はこっちを成仏させてあげましょう。
このチョコは捨ててもいいよ 「好き」なんてジャイ子のくせになまいきだよね
なぜかドラえもんの短歌に。そのままでは卑屈すぎる想いをアニメキャラをつかってごまかしてみました。
あと、一緒に送ってくださったもうひとつの短歌、「八月のオウンゴール」というフレーズ、かっこよかったです。うまく活かしてもっといい作品になりそう。がんばって。