• love
  • 2017.10.10

生涯未婚時代?私たちが自分らしくいられる場所へ。永田夏来さん×紫原明子さんイベントレポート

『生涯未婚時代』を上梓された社会学者の永田夏来さんと、エッセイストの紫原明子さんによる対談イベントをチェコ好きさんがレポート。新しい結婚、家族のかたちを選ぶと浴びせられる「呪い」を、跳ね返すための「白魔法」とは?

対談『結婚と家族にしばられない生き方って? ~「呪い」の言葉をはね返す「白魔法」~』の様子

 9月22日、『生涯未婚時代』を上梓された社会学者の永田夏来さんと、エッセイストの紫原明子さんによる対談『結婚と家族にしばられない生き方って? ~「呪い」の言葉をはね返す「白魔法」~』が開催されました。会場には女性だけでなく男性も、また独身だけでなく既婚者や妊婦さんの姿もあり、後半のワークではそれぞれの立場から活発な意見交換が行なわれました。こっそり会場に潜入していた私(チェコ好き)が、このイベントのレポートを担当します。

結婚して、パートナーを得れば「成熟」できるのか

対談『結婚と家族にしばられない生き方って? ~「呪い」の言葉をはね返す「白魔法」~』の様子

 とある結婚情報誌が「結婚しなくても幸せになれるこの時代に」というメッセージをCMに入れたことからもわかるように、「結婚しない生き方」も、一昔前と比べると世間でだいぶ理解が進んできました。しかし、未だに20 代の女性で「30歳までに結婚したい」と強く願っている人が多いことも事実。私たちは、なぜこうも「結婚」を重視してしまうのでしょうか……。

 永田さんはその理由の1つとして、「人は結婚してパートナーや家族を得ることによって成熟・安定する」という古典的な考え方が根強く残っているからだ、と指摘。パートナーや家族がいない人間はアイデンティティが安定せず自暴自棄になりがちで、未婚者が増えると社会が不安定になる……と考える人は今でも少なくありません。さらに現代では、地域の繋がりも企業の終身雇用制度もほぼ崩壊しています。そうなると、個人を包摂できるのはもう家族しかない。国も世間も、個人を支えるすべての機能を「家族」に丸投げしています。

 永田さんはこの状況に対して、「『家族しかない』からといって、すべてを家族任せにしていいのか」と問題を提起していました。すべてを家族任せにしてしまうと、未婚者が息苦しい思いをするだけでなく、不登校の子供を持つ家庭が出口を失ってしまったり、介護の問題も個々の家庭に重くのしかかってきます。

対談『結婚と家族にしばられない生き方って? ~「呪い」の言葉をはね返す「白魔法」~』の様子

 これに対して紫原さんは、「離婚してからのほうが、子育てで互いに協力できるようになった。自分の友人や元夫の友人など子供に関わってくれる大人が増え、より広い範囲で子供を支えられるようになった」と自身のエピソードを語ってくれました。個人のアイデンティティを守る機能のすべてをパートナーや家族に丸投げしてしまうと、パートナーや家族を持たない人はもちろん、持っている人ですら追い詰めてしまうことがあります。パートナーや家族を持つことは素敵なことだし、自分を成長させてくれるけれど、それ「だけ」が人間を成熟に導くわけではありません。そう考えていたほうが、私たちの社会は風通し良くいられるのではないでしょうか。

 しかし、パートナーや家族を持たずに生きていくとなると、当然ながら仕事などを通して家の外で他者と関わる必要が出てきます。というわけで、話は後半の参加者同士で行なうワークへ。

家の中で競争するセミナー女子、家の外で競争するキャリアウーマン

 ワークでは、縦軸の「(他者と)競争する」「競争しない」、横軸の「家の中自分の中」「家の外自分の外」の4つの要素を組み合わせて、自分が今いる場所、そして今後進みたい場所を参加者同士で話し合っていきました。

対談『結婚と家族にしばられない生き方って? ~「呪い」の言葉をはね返す「白魔法」~』の様子

 たとえば左上、「家の中」で「競争する」には、様々な自己啓発系のセミナーに通い自分磨きに励む「セミナー女子」などが当てはまるでしょう。そして左下、「家の中」で「競争しない」のは、ニートや専業主婦。それから右上、「家の外」で「競争する」のは、企業にお勤めのキャリアウーマンなど。最後に右下「家の外」で「競争しない」のは、個人事業主や地域起こし協力隊などでマイペースに働く人が当てはまるかもしれません。ちなみに私自身は、現在「家の外」であまり競争を意識せずに働いているので、こちらの右下エリアを今いる場所として選びました。

対談『結婚と家族にしばられない生き方って? ~「呪い」の言葉をはね返す「白魔法」~』の様子

 表を見た紫原さんから出た『「競争しない」人は、他者に自分の何を認めてもらって、何をモチベーションに頑張ったらいいんだろう?』という質問に対しては、永田さんは「(やりがい搾取などに転じてしまう可能性も考慮しつつ)生きがいとか、やりがいとか……」と回答。また参加者の中から、「自己肯定感の低い人は自分だけの軸を持つことが難しいので、他者からわかりやすく認めてもらえる競争エリアの中に身を投じる人が多い」など興味深い意見も飛び出していました。

自分を縛っているものを考えるのを怠らなければ

「そんな恐ろしい呪いからはさっさと逃げてしまうことね」とは大ヒットしたドラマ『逃げ恥』の百合の言葉ですが、呪いの「正体」を見極めると、私たちはその場所から動きやすくなります。「結婚」とは何なのか、「家族」とは何なのか。永田さんと一緒に様々なデータや歴史を振り返ってみたことで、「自分に呪いをかけていたものの正体」に気付くことができた人も多かったのではないでしょうか。

「男と女が婚姻届を出して、法律的な結婚をして、子供を産んで、2人で育てる」ことは、現在多くの人が選択している古典的な家族の形です。でも、男と女が婚姻届を出さずに一緒にいたっていいんじゃないか。男と男とか、女と女とか、男女が混ざったもっと大人数で一緒にいたっていいんじゃないか。そしてもちろん、一人きりでいたっていいんじゃないか。現在30歳の私もまだまだ独身の人生を歩む予定ですが、もし30歳を過ぎても独身でいることを不安に感じている年下の女性がいたら、「自分がしっかりしていれば、そして自分の考えを縛っている様々なものの正体を考えることを怠らなければ、別に大丈夫」と伝えていきたいです。

 覆面芸術家・Banksyの作品集の帯に、「勝てないなら、テーブルごと引っくり返せ!!」という言葉が載っています。少々荒っぽい表現ですが、もし今自分がいる場所に息苦しさを感じている人がいたら、美術界の様々なルールを無視してきたBanksyみたいに、テーブルや固定観念なんか引っくり返してしまえばいいんです。ルールを無視して「逃げる」ことは、決して後ろ向きな行為ではありません。

 ゴールなんてないけれど、前向きに、より自分らしい方向へ「逃げ」続けた先に、居心地のいい場所がきっとあるはず。今回のイベントは、そんなことを考えるきっかけになったのではないでしょうか。


Text/チェコ好き