「諦める才能」のある人だけが結婚すればいい/インタビュー(1)

 東大院卒の元日経新聞記者で元AV女優という異色の経歴が、週刊誌でセンセーショナルに取り上げられた文筆家の鈴木涼美さん。女性の抱える多面的な欲望や生き様を、疾走する文体で綴った著書『身体を売ったらサヨウナラ』も注目を集めています。
そんな彼女に、女性の枷ともなっている“結婚”という制度との向き合い方、結婚しない“おひとりさま”の生き方について、全4回にわたって伺いました。

30歳で襲ってくる結婚したい内圧、結婚しなきゃという外圧

鈴木涼美 ©宮本晶比古

――まずは単刀直入にお伺いしますが、鈴木さんご自身には結婚したい願望はありますか?

鈴木涼美さん(以下、敬称略)
私も子どもの頃から月9ドラマや少女漫画を見て育ってきたので、基本的には“ロマンチックラブを経ての結婚”というイデオロギーを刷り込まれてきていて、一応それが女性のわかりやすいハッピーエンドである、という価値観が主流だと思って生きてきました。
好きな人ができれば、この人と結婚したらどうなるだろうと思いを巡らせるし、結婚式やウエディングドレスに対する単純な憧れもそれなりにはありますよ。

――30歳頃を境に、周囲、特に家族から結婚のプレッシャーを感じている女性は多いようですが。

鈴木
おそらく女性は、25歳を超えた辺りで親や祖父母から「いい人はいないの?」と言われはじめて、30歳を過ぎると直接的に「結婚したほうがいい」という猛攻撃が始まる感じじゃないでしょうか。

 私自身、いささか変わった経歴を歩んではいますけど、祖母には年に数回会うたびに結婚のことは言われるし、親からもお見合いとまではいかなくても、「この人とは絶対に会ってください」と電話番号が送られてきて男性を紹介されたことはあります。

 それでも、母には「結婚で諦めなきゃいけないものを考えると、今はまだ結婚は難しいんだよね」とか、「そこまでの人はいないんだよね」「今の彼氏も、結婚という観点で見ると微妙なんだよね」といった会話ができるんだけど、祖母にそこまで詳しい話をしても仕方ないので、「そうだよね、おばあちゃんが元気なうちにウエディングドレス見せなきゃね」とか言いながら、適当にかわすことだけがうまくなっちゃいましたね。

結婚のメリットは、制度に従ったほうが便利で生きやすいこと

――今は3組に1組が離婚するといわれ、バツイチやシングルマザーも珍しくありません。わざわざ結婚するメリットってあるのでしょうか?

鈴木
日本では、フランスのPACS婚のような事実婚制度が認められていないし、特に30歳を過ぎると、社会が基本的に“結婚をしている人向け”の制度になっている。だから、その制度に則って生きていたほうが、便利で生きやすいというのが実状だと思います。

 特に、現状の制度では、子どもを産んで育てるなら、結婚していないとものすごく不利で不便になってしまう。実際、私の周りでも結婚のきっかけで一番多いのは“できちゃった婚”です。
逆にいえば、今は“できちゃった”くらい強制力のある理由がないと、若いうちに結婚する直接的なメリットってなかなか見つからないのでは。

――わかります。女性だけでなく、男性も結婚するきっかけやメリットは実感しにくいだろうと思います。

鈴木
企業勤めをしている男性の場合は、転勤が結婚のタイミングになることも多いみたい。
同棲する彼女を連れて行っても会社は何もしてくれないけど、奥さんを連れて行けば大きい社宅が借りられるし、配偶者手当も転勤手当も出るから、それが理由で結婚しました、みたいな人はいっぱいいますね。

 あとは、付き合いが長くなって女性のほうがそれなりの年齢になったから、男性が“けじめ”のためにプロポーズするケースとかもよく聞きます。
いずれにしろ、お金とか年齢とか、外からのタイミングやプレッシャーに後押しされて……という理由がほとんどじゃないですか。