いつだって始められるし終えられる、軽やかな関係もいい

性欲ってなんだろう。眠たげな男のとなりで思う。下腹部をうめてほしい感じ。好きな人の肌を舐めたい感じ。知らないところにいきたい感じ。全身を脱力させたい感じ。なんとなく、どこにも旅行できない夏に、飛行機が飛んでいるのを見たときの気持ちにも似ている。涙が出そうな、懐かしい感じ。恋しい感じ。

私の性欲は、真夏が好きという気持ちとも、好きな人のことを好きだという気持ちとも、不可分だ。

性欲を伴わない恋心が「純粋」と呼ばれることがあるが、そんなのって存在するのだろうか。「好き」と、「セックスしたい」と、「どこかに行きたい」と、そのほかいろんな感情は入り混じっていて、だからこそ欲望は深まり、セックスは気持ちいいのだと思う。

彼に会っているあいだはずっと幸福で、高揚感に包まれていたが、手をふって別れたあとの帰り道、なんだか急に恥ずかしくなってきて、「あー、もう好き!」と「あー、もう嫌い!」を5秒ごとに呟いていた。不審者だ。私は比較的恥じらいの少ない人間ではあるが、それでも人間に「恥」の感覚がなかったら、どれほど楽だろうかと考えることがある。

LINEの通知がきていたが、彼からのメッセージの内容を見る気にはならなかった。そして結局10日くらい無視してしまった。男女逆だったら「ヤリ捨て」ということになってしまったかもしれない。でも私は思うのだけれど、別にセックスのあとにしばらく連絡を無視したっていいのではないか。誰にでも気が乗らないときはある。そんなことで人を捨てたことにはならないだろう。いつだって始められるし、いつだって終えられる、軽やかな関係も良い。そういう雰囲気があるから、夏、それも真夏が大好きだ。

Text/雨あがりの少女