満たされると感じるほど、余計にさみしくなってしまう

小池龍之介さんの写真

――自転車操業を続けてしまった場合どうなってしまうのでしょう?

小池

快感が切れてしまったあとは、「もっと愛されたい」「もっと受け入れられたい」という、禁断症状が出てきます。

 そうやって、刺激(愛情・承認)→快感(満たされた気持ち)→渇望感(やっぱりさみしい)というパターンを繰り返すうちに、脳に耐性がついてしまう。すると、前よりも強い刺激でないと満たされなくなり、より強いさみしさが引き起こされ、結果、常に人とつながっていないと不安になってしまう、というわけです。
人の心は、満たされれば満たされるほど、余計にさみしくなるようにできているんですよ。

――なんとも皮肉なものですね……。
では、自分の親や家族、恋人のように、より強い愛情や承認を得られるような相手には、より強いさみしさを感じてしまう、ということですか?

小池

その通りだと思います。私たちは、とりわけ家族やパートナーに対して、過剰な期待を抱きがちです。そして、それが叶わないと他の人よりも強い怒りや、憎しみを抱くので、よりさみしくなります。

 特に恋愛は、「愛されたい」「求められたい」という渇望感を強烈に満たしてくれますからね。すると、脳はもっと強い快感を欲しがって、その反動で、より強い「さみしい」「満たされない」という不安を引き起こそうとする。だから人は、恋愛すると不安になりたがるんです。

――特別な期待や要求をしてしまうからこそ、相手にネガティブな感情を抱いてしまいやすいんですね。

小池

私たちは、目の前の相手の言動が原因で怒ったり不安を感じたりしているように錯覚していますが、本当はもともと自分の中に怒りや不安といった“感情のエネルギー”があって、たまたま目の前にいる人をそのターゲットにしているだけなんです。
人は自分の世界の中に閉じこもっていて、そもそもすごく孤独なんですよ。

 相手が自分を愛してくれないから、腹を立てたりさみしくなったりしているのではなくて、私たちはそもそもさみしくて、それを満たしてくれるはずだと思い込んでいる相手が満たしてくれないことに勝手に腹を立てている。因果関係が逆なんです。

「自分がさみしいから、相手に腹を立ててしまうんだ」と理解していれば、むやみにイライラしたり不安になったりしても無意味だと気付くはずですよ。それを自覚できている人はほとんどいませんが…。