魅力的な大人になりたい。私に「大人の生き様」を見せてくれた女性/椿

「若さには価値がある」と言われ続けて

バーカウンターで微笑むラッパーの椿さん

10代の頃はとにかく、いずれ歳をとる現実に漠然とした恐怖心を持っていた。

あの頃いわゆる「マセガキ」だった私たちは、早々とメイクを習得し、髪を染め、高いヒールで歩いた。
「え! まだ10代なの? 見えない!」と驚かれる度に、してやったり! な気分で満たされた。
憧れの対象は、同じく10代のカリスマ性を持った先輩だったし、興味の対象は「同世代で輝いてるヤツ」だった。

「若さには価値がある」と周囲の大人は言うが、その言葉に本心で納得していたわけではない。

若いね~、まだ10代だから~、と懐かしむような顔を向ける大人から滲み出る諦めの色に嫌気がさしたし、若い君の価値はいずれなくなるんだよ、と囁かれているような、そんな居心地の悪さも感じていた。

また、10程度しか歳の離れていない大人の女性から、若い私を比較対象に自らを「オバサン」と卑下したり、衰えのステップを伝授されるたびに、ただただ((10年後への脅しかよ..))と将来を悲観していたように思う。

若さを羨むだけじゃなく、大人の魅力を謳歌して伝えてくれ!
若さを褒めなくていいから、大人になることへ希望を感じさせてくれ!

それが切実な感情だった。

魅力的な大人に出会いたい

「魅力的な大人に出会いたい」
その願いは心の奥底に沈殿し、忘れたように過ぎた。
ラッパーとして活動的になり始めた17の冬、私は刺激を求めて東京に旅に出た。

知り合いは一人しかいない。一度だけ福岡の会場でお会いした女性だ。
彼女は福岡出身のアーティストで、すでに東京に拠点を移し活動をしていた。当時27歳だった彼女は私の10個上。ラップをする私を見かけて声をかけてくれた。
「東京に来ることがあったら連絡して!」と、連絡先を教えてくれたのだった。

不思議な安心感のある凛々しいお姉さんだった。

他に頼りのない私は、新宿をさまよいながら彼女に電話をした。
彼女はまるで昔から知っている友人から連絡が来たかのような、軽やかなトーンで応えた。

「新宿におると? さらわれるよ~笑! 今から向かうけん待っとって~!」

(……!!??)

こうして人生初の東京を、彼女のそばで何日か過ごした。

10年たった今でも、彼女は私の人生に影響を与えた魅力的な大人の女性として、真っ先に思い浮かべる存在だ。
彼女の魅力は、10代の私にとって完全に盲点と言えるものだった。
ショックを受けると同時に、彼女のような大人を知れたことで、歳を重ねることを前向きに捉えられるようになった。