2016年も終わりに近付き、色々と慌ただしくなる時期ですが、皆さまはいかがお過ごしでしょうか?
忙しいながらも、クリスマスに冬休み、大晦日、元旦と行事も目白押しな楽しい季節でもあります。
街のいたる場所では木々が煌びやかな照明でデコレーションされ、思わず寒さに首をすくめ、下を向いて歩きがちな冬の景色を鮮やかに彩ります。
有名な観光スポットに出掛けるも良しですが、人気の場所は混雑しているのが難点です。そんな「人混みは苦手、でもクリスマス気分は味わいたい」という方におすすめしたいのは、あたたかい珈琲を頂きながらクリスマスツリーを眺めることのできる「純喫茶 ヒスイ」です。
「昭和」を味わえる、美術館のような趣き
場所は和歌山県和歌山市駅周辺。私は大阪のなんば駅から南海電鉄の特急サザンに揺られて向かいました。のんびりした街並みを散策するも一興ですが、「建築物としても素晴らしい」という事前情報を頂いていたので、つい早足になって向かってしまいました。
緑色の文字で「純喫茶 ヒスイ」と書かれた看板と、まるで洋館のような外観は期待を裏切りませんでした。
入口には“自家製生ケーキ付”とコーヒーセットを知らせるボードが。メニューサンプルは色の濃いガラスの向こう側にあり、ぼんやりとしか見えないところも魅力的です。
扉を開けて中に入ると、まず視界に入るのは可愛く飾り付けられたクリスマスツリー。隣には貴重な大型のコーヒーミルが並べられています。
現在は開放されていませんが、かつては多くの人で賑わったであろう二階へ上がるための階段が。手摺の美しい鉄細工や大きなシャンデリアに目を奪われながら奥へ進むと、思わず言葉を失ってしまうほどの豪華な吹き抜けが現れます。
一階席がある右側と、数段下がった半地下の座席がある左側。一本足の椅子は橙色と黒色の2種類があり、座る場所によって見える景色が違うので、どの席にしようかしばし迷ってしまいました。
吹き抜け部分にはまるで神殿のような柱が立っていて、頭上には大きな輝くシャンデリアが。ぐるりと360度うっとりする美しさで、時間が止まって、しばらくここに閉じ込められてしまいたいと思うほど。
「もともとあった建物を改装したのではなくて、この店を始めるために一から作った。大阪の心斎橋にあった好きだった純喫茶を真似してね」とは、ご高齢ながらもお元気そうなマスターのお言葉。
尋常ではないこだわりを感じられる数々の細工が施されたこの素晴らしい空間を、たった珈琲一杯の値段で味わえるなんて…。
やはり純喫茶は素晴らしい“昭和美術館”である、と今までに何百回、何千回と感じた思いをまたもや噛み締めるのでした。
Text/難波里奈
※2016年12月23日に「SOLO」で掲載しました
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