切り抜け方を学んでこなかったのは、私自身
でもきっと、つまらないのも退屈なのも私だけではないのだ。あの会場にいるほとんどの人が私と同じくらい会社の飲み会が苦手で嫌だなと思っている。仕事とか当たり障りのない話をしながら、「早く帰りたいな」と思ったり、他のことを考えたりしている。会社の飲み会だから仕方なく参加しているだけで。会社や部署など、たまたま属性が同じになっただけで他人同士が仲良くなれるはずなんてない。業務に差しさわりが出てしまうこともあるので、プライベートは公にしないし、本音で話すことも悩みを相談することもない。それなりの協調性を身につけ、なんとかやっているだけである。もちろん、ちゃんと意味のあることで、仕事中のコミュニケーションが取りやすくなることもあったし、雑談のなかで助けられたことだって今までもあるのだが。
会社の人に対しては、よくも悪くも「普通だな」と思っている。皆、私よりもずっと頭のいい大学を卒業して、海外の大学に留学したり誰でも知っているような企業に勤めて、筋トレやサウナを趣味にして、30くらいで結婚して普通の幸せを普通に手にできる人たちである。そんな人と分かり合えるはずがない。同じ価値観を持ち合わせているはずがない。理解されるはずがないとずっと思い続けているが、そうやって勝手に決めつけて勝手に壁を作っているのは私だ。だから、当たり障りのない話しかしない。いきなり秋になって着る服がないとか一番近いコンビニで買ったお菓子が美味しいとか仕事のちょっとした相談とか、そういう話しかしない。
人と分け隔てなく仲良くする方法やつまらない場での切り抜け方、場をもたせるための会話術、自分から遠い人との共通点の見つけ方とか、知らない人・必要以上に親しくする必要のない人が集まる場所で自分を確立させる方法を、本当は学生時代とか思春期に学習しておくべきで、単純に私にその技術が身につかなかっただけかもしれない。 仕事もつまらない飲み会も、もっと要領よく切り抜けられたらいいのに。なんとか楽しくやっていける過ごし方をどこかで学べたらよかったのに。その方法がいつまで経っても私にはわからない。学生時代から、自由気ままに過ごしてきたツケみたいなものを、社会人になってから少しずつ少しずつ払い続けている気がする。
TEXT/あたそ
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