先月、2019年以来――つまり、コロナ禍に突入してから初の海外旅行をしてきた。今もウイルスはなくなったわけではないので「コロナ明け」などと言ってしまうのは憚られるけど、私が旅行したエストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、チェコの5カ国では、もう誰も街中でマスクをしていなかった。世界が大混乱に陥った2020年には「ヨーロッパでアジア人差別が根強く残ったらどうしよう」なんて心配もしていたけれど、結果的にいうと今回旅した地域で差別的な視線も特に感じなかったので、旅行に関していうとコロナ前の世界にほぼほぼ戻ったと言ってもいいのかもしれない。結局、コロナが変えたものってなんだったんだろう。リモートワークが普及したこととか?
そんなコロナの話はいったん置いておいて、今回は旅先で読んでいた角田光代さんのエッセイ『いつも旅のなか』について、少し語ってみようと思う。『いつも旅のなか』は、モロッコだったりロシアだったりモンゴルだったりキューバだったり、とにかく角田さんがいろいろなところを旅している本だ。
街中で「なんかつまんない」と思ってしまった理由
『いつも旅のなか』で、個人的に共感した話は他にもたくさんある。だけど特に絞って話すとすれば、やっぱり「旅と年齢」というタイトルで登場するラオスの旅の章だろうか。埃まみれのバックパックを背負い、安宿を泊まり歩き、何日も同じ街に滞在する。そんな「貧乏バックパッカー」のスタイルを続けていた角田さんは、33歳でラオスをいつもと同じように旅している間、ふと思う。「なんかつまんない」と……。
旅好きとしてはものすごーく言いづらいが、私も今回、ちょっと似たようなことを思った。エストニアのタリンで、ラトビアのリガで、4年ぶりの海外旅行だというのに「なんかつまんない」と思った瞬間があったことを否定できない。ヨーロッパの街も教会も、各々はとても素晴らしいけどぶっちゃけどこも似ているといえば似ているし、ヘンテコなスポットもすでに行きまくっているので、最初の頃に感じていたような「なんだこれは!? 私の頭の中の辞書にない! すごい! 今すぐ登録しなければ!」みたいなことはもう思わない。「はいはい、知ってる。はいはい」という感じ。もしかして、私、旅に飽きちゃったのか?
角田さんはエッセイの中で語る。「旅にも年齢がある。その年齢にふさわしい旅があり、その年齢でしかできない旅がある」と。そして、気づいてから角田さんは少しずつ旅のスタイルを変えていく。タクシーに乗ってみたり、星つきのホテルに泊まってみたり、膝にナプキンを広げるレストランで食事をしてみたり。
私はというと、もともとそんなに貧乏バックパッカーではなかったので、年齢を重ねたからといってどこをどう変えたらいいのかまだよくわからない。だけどこのエッセイを手にしなかったら、「もう旅に飽きちゃったんだ、これからは旅をしなくていいんだ。大人になったんだからもっと地に足をつけなければ」とか思って、旅行をやめていたかもしれない。いろいろ思いを巡らせた結果「やり方を変えればいいのね!」という結論になり、つまりまだまだ旅行する気でいるので、エッセイに救われてしまったというか、さらに沼に落とされてしまったというか。とにかく角田さんには感謝しなければならない。
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