唯一心を許した弟の結婚
酒が好きだ。ひとりでしっぽり飲む度数の強い酒も、友達と汚い居酒屋でげらげら笑いながら飲む安くて薄い酒も、バーで真面目な話をしながらゆっくり飲む高い酒も大好きだ。
私は酒を飲むといつも以上に饒舌で笑い上戸になる。一緒に飲んでいる人と共通の知り合いを見つけては連絡をする。懐かしのアニソンとかを勝手に歌い出す。たまに記憶をなくして気が付いたら自宅の布団で寝ていて、化粧を落としてシャワーを浴び、ちゃんとパジャマを着ているだけではく、たまにトイレがきれいになっていたり食器が全部洗われていたりする。あまり覚えていない。とはいえ、酒が好きだ。酒癖はものすごく悪いが。
先日、弟の結婚式に出席し、10年以上ぶりに家族に会った。全員が酒豪だった。前菜が魚料理だったので、ガバガバ白ワインを飲んで酔っ払っていつもと同じようなテンションで話をしていると母親に「飲みすぎるな」と何度も注意をされる。そういえば、家族といるときの私ってこんなに明るく饒舌で笑い上戸な性格ではなかった。
母親は、私をいつまでも子どもと見なす。だから、自分の間違いを決して認めようとしない。何か口論になったときも、まったく関係のない過去の話を持ち出して、自分の正しさを貫こうとする。理論立てて丁寧に話をしてもまったく通じず、「自分のこと、頭いいと思ってるんでしょう！人のこと馬鹿にして！」と激高する。そういう人だったから、いつの日か私は対話を諦めた。一緒に暮らしていた頃は、なるべく地雷を踏まぬよう、最低限の会話のみで過ごした。
家族のなかにいる私は本当の私より少し無口で暗くて、自分の意見を言えない。改めて、この人たちと一緒にいる私は絶対に幸せになれないし、自分らしくいられないと思った。家族でお酒を飲むのも、7歳離れた妹が酒を飲むのを見たのも初めてだった。でもたぶんこれで最後になるだろうな。私に残された家族イベントは、きっと葬式だけだろう。
私は家族が嫌いだ。誰がなんと言おうが好きになんてなれない。そのなかでも唯一心を許しているのが弟で、だからこそきちんと招待してくれたことがうれしかった。あんな家庭で育ったのに、ちゃんと結婚して家庭を持つことを決め、さらにとても素敵な女性と暮らすだなんて、本当にすごいことだと思う。まあ、弟とも久しぶりに連絡を取ったし、今後も深く関わらない気はするが。私たちの家族は、基本的にお互いに興味がない。端から見ればおかしいのかもしれないが、私たち家族にはこれくらいの遠すぎる距離がちょうどいいのかもしれない。
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