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  • 2016.08.23

いざ行かん熱海秘宝館――女性も楽しめるエロ・アミューズメントパークとして

短い休暇で旅行できる観光スポットとして現役東大院生がオススメするのは熱海!温泉、ロケ地めぐり、熱海城、トリックアート迷宮館、初島……そして何より、現存する唯一の秘宝館である熱海秘宝館があるんです。実は昔も今も、女性もターゲットにしていた秘宝館は、デートスポットにもぴったりみたいですよ!

日本に現存する唯一の秘宝館

服部恵典 東大 院生 ポルノグラフィ 研究 秘宝館
©InSapphoWeTrust

 8月も下旬。お盆休みも終わってしまったころだろう。せっかくの夏なのだからどこか旅行に行こうと思っても、長い休みはとれないかもしれない。
しかも今年のシルバーウィークは3連休しかないらしく、遠出のチャンスは今後もしばらくなさそうだ。

 ならば、熱海はどうだろう。
短い休みしかとれなかった人でも、思い立てば新幹線ですぐ行ける。
昭和バブル期の旅行地のイメージがあるかもしれないが、映画やテレビドラマのロケ地として使われることが急増した結果か、最近は観光者数がV字回復して14年ぶりに300万人を超えたという。

 観光資源として、ロケ地の聖地巡礼や温泉はもちろん、日本で最も新しい城である熱海城や、トリックアート迷宮館、離島の初島、そして何より日本に現存する唯一の秘宝館があるのである。

服部恵典 東大 院生 ポルノグラフィ 研究 秘宝館
『秘宝館という文化装置』

 みなさんは「秘宝館」を知っているだろうか。
1970年代前後に現れた、性をテーマとした「おとなの遊艶地」であり、アングラでディープ、滑稽でユニークな施設としてかつては温泉地につきものであった。
性器をかたどった民俗的物品などのコレクションのほか、ハンドルを回すとセクシーな蝋人形のスカートが風でめくれたりする来館者参加型の展示も多いのが特徴である。

 画像があればイメージも湧きやすいだろうが、あいにく「熱海秘宝館」は撮影禁止である。
ウェブ時代の今あえて情報統制を敷くことによって、マニア感と、行かなければ味わえないローカルな魅力を出そうという意図なのかもしれない。

 ……はずなのだが、意外と写真まみれのレポート記事がネット上に転がっている。嗚呼、その不徹底さも味がある。
(asoview!TRIP「熱海秘宝館を体験してきた!撮影禁止の内部を紹介」

 さて、秘宝館はかつて北海道から九州まで2、30ほど存在していたらしいが、不景気や、団体旅行というスタイルの衰退のせいか客数が減り、今では熱海にしか存在しない。
本記事が多くを負っている、妙木忍『秘宝館という文化装置』が書かれた2014年2月(出版は3月)には、佐賀県の「嬉野武雄観光秘宝館」と栃木県の「鬼怒川秘宝殿」も残っていたが、それぞれ2014年3月、12月に閉館してしまった。
最後に残ったのが「熱海秘宝館」だが、ここですらいつまで残っているか分からないのだから、気になるならば思い立ったが吉日である。さあ行こう。行くしかない。

 なぜ私が秘宝館をこれほど推すのかというと、秘宝館はそのイメージとは裏腹に、昔も今も女性が楽しめる施設だからである。
次節から、「女性も楽しめるエロ・アミューズメントパーク」という点を重視しながら論じていこう。

女性向けのエロの先駆者

 前節で先走ってしまったが、この記事を書くにあたって参考にしている本は、妙木忍『秘宝館という文化装置』である。
この本のテーマは「模造身体」、つまり人間の身体をまねて作られた人形の系譜や、その身体が観光の対象になっていく歴史を明らかにしようとしている。

 もちろん、このテーマも社会学的に興味深い。
しかし、私がより関心をもって読み、またこの記事の読者にとってもおそらく関心をもちやすいのは、秘宝館と女性の関係性の記述である。
私はこの本を読むまで、秘宝館は男だらけの薄暗い楽園だと思っていた。
だが、秘宝館は実は、初期からエロのターゲットに女性も含んでいた先駆的な存在だったようだ。

 著者の妙木は、最初期の秘宝館「元祖国際秘宝館伊勢館」オーナーの次男であり、2代目社長の松野憲二氏にインタビューしている。
松野氏によれば「『女性も性やセックスに当然興味があるはずであり、女性客も受け入れる気はあった』し、また実際に『婦人団体、つまり婦人だけの旅行バスもどんどん来てくれた』」そうだ(59ページ)。

 とはいえ伊勢館の女性客は3割に満たないほどだったそうだが、伊勢館以降の秘宝館全盛期には、女性客はさらに増えていった。
札幌の定山渓温泉に存在した「北海道秘宝館」にいたっては、1983年の改装以降、明確に女性客をターゲットに定めており、「おんなの広場OPEN!!」「世界で初めての“おんなの遊園地”誕生!!」と謳っていたのだ。
ここの秘宝館は1985年あたりから女性客がぐっと増え、ついには6割ほどが女性客だったという。

 83年という年は女性向けエロコンテンツの潮流のかなり初期に位置する。
たとえば、女性向けポルノコミック「レディコミ」は、元祖は79年創刊の『Be in LOVE』だとされているが本格的なセックス描写を盛り込んだのは『La.comic』(85年)、『FEEL』(86年)あたりからであり、最盛期を迎えるのは『コミックAmour』が創刊された89年からその数年ほどだ。女性向けAVに関しては、私が存在を確認できる範囲で最も古いのは1988年のものである。

 なぜ秘宝館はこれほど女性を集めることができたのか。
一つには、北海道、熱海、鬼怒川、嬉野など多くの秘宝館の担当した施行業者である東京創研が、初期の「元祖国際秘宝館伊勢館」とコンセプトを変えて女性が見ても不快感を抱かない展示を目指し、グロテスクな医学展示や強姦シーンを排除したからだ。一方で、客が秘宝館に入りやすいように日本に古くからある性信仰を展示初期段階に配置した(80-1ページ)。

 第二に、妙木は女性が増えた理由が「観光の女性化」にあると推測する。
つまり、女子労働力率の上昇とともに女性が余暇活動にあてる収入を得た結果、旅に出かける女性が増えたのだ。
実際、「北海道秘宝館」のオーナーも、「定山渓に女性客が増えてきていたこともあり、男性と同じように発散して楽しめるところが必要だと考えた」と語っている(87-8ページ)。
特に、団体旅行というこの時代のスタイルも影響していた。女性も、男性の目がない婦人団体での旅行ならば訪問しやすかったことだろう。

 ちなみに、妙木は戦後の「主婦論争」の研究で博士論文を書いているが(『女性同士の争いはなぜ起きるのか』として書籍化)、あとがきで「実はこの研究と秘宝館研究は筆者のなかでは深く関連している」と語っているのは印象的だ。
秘宝館を通じて、取り巻く社会、特にそこに生きる女性を分析するのは妙木ならではの視点である。

秘宝館のいまの女性客

 さて問題の熱海秘宝館だが、ここは数ある秘宝館のなかでもメンテナンスの実施や新たなアトラクションの導入が最も活発である。
21世紀に入ってからも「新説浦島太郎」「熱海の花火」「吉原芸者」「シーサイドマンション秘宝館」「あなた好みのパートナー」といった展示が追加されている。
このあたりが、秘宝館として最後まで生き残った秘訣なのかもしれない。

 やはり現在も、女性客は意外と多い。実際、私も現地で感じた。
私が熱海秘宝館を訪れたのは大学の卒業旅行だったが、男だけでニヤニヤしながら行こうと思っていたのに女性陣もついてきて、そのうえ意外と楽しんでいて驚いた。
熱海秘宝館の女性客の割合は正確にはわからないが、参考までに、「おんなの遊園地」を自称していない「嬉野武雄観光秘宝館」ですら2011年~13年は約4割が女性客であったという(137ページ)。
秘宝館が女性をターゲットにした時期は「観光の女性化」の時期と重なる、というのが妙木の見立てだが、現在の女性客の増加は、「エロの女性化」「アングラの女性化」が進んだ結果といえるかもしれない。

  *  *  *

 話は変わってここからは私の勝手な空想だが、秘宝館が楽しめるカップルは長続きするだろうと思う。

 たとえば、ディズニーランドでデートをすると、長い待ち時間を楽しませてくれるセンスや、歩き疲れを気遣うといった優しさを測れるなどと聞いたことがある。
単純なエンターテイメントの完成度でいえば、秘宝館はディズニーには絶対に適わない。
しかしだからこそ、パートナーと2人でその冴え渡るB級感・シュール感をリスペクトし、アングラな性のアミューズメントパークを楽しめたならば、かなり深いところで価値観が一致していることを確かめられるはずだ。
ちなみに秘宝館を出てすぐの展望台には、「愛錠岬」というマジのカップル向けスポットも用意されている。

 もちろん、友達と行っても同様である。
「友達と登って、恋人と降りてきた。」とは東京スカイツリーの素敵なキャッチコピーだが、熱海秘宝館には「友達が、フレンドになった。」というコピーがある(参考)。いかようにも深読みできるが、秘宝館はつまり、そういう空間なのである。

 さあ、誰と行くか。その吟味から秘宝館の愉しみは始まっている。
大勢でわいわい、2人でしっぽり。いざ行かん、熱海秘宝館。

Text/服部恵典

次回は<交差する視線――AV女優と目が合う〈俺〉は何者なのか?>です。
ポルノを研究するこの連載で、今までAM読者の皆さんといっしょに考えてきたのは、視聴者の視線。しかし、次回分析するのは、被写体になっているAV女優の視線です。AV女優がカメラを見て視聴者と「目が合う」パターンが5種類あり、しかもその中にはAVが独自に磨いてきた技法があるようです!

ライタープロフィール

服部恵典
東京大学大学院修士課程1年。同大学卒業論文では、社会学的に女性向けアダルト動画について論じる。

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