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  • 2016.08.27

大竹しのぶが怪演!老人の金を狙う天才詐欺師が手に入れられなかったもの『後妻業の女』

金持ちの資産を狙って結婚詐欺を働く小夜子と、それを仕切る結婚相談所所長の柏木の“後妻業”の数々。怪しい探偵・本多にその犯罪が次々と暴かれていく——鶴橋康夫監督が大竹しのぶ主演で描く人間悲喜劇。

たけうちんぐ 後妻業の女 鶴橋康夫 大竹しのぶ 豊川悦司 東宝
©2016「後妻業の女」製作委員会

 こんなヒロインがいていいものか。
嘘をつく。お金を奪う。罪悪感がない。結婚相談所で資産を狙って、結婚詐欺を働く犯罪“後妻業”で生計を立てる女、その名は武内小夜子。お金持ちの高齢者が集まる婚活パーティーで、今日も獲物を探して色目を使う。
そこに愛なんて一切ない。お金しか見えていない。そこに幻想なんて存在しない。ここまで現実しか見ないヒロインがいるなんて!

『愛の流刑地』の鶴橋康夫監督が直木賞作家・黒川博行の『後妻業』を映画化。
主人公・小夜子に日本映画界に欠かせない女優・大竹しのぶ、小夜子を裏で操る結婚相談所所長・柏木に豊川悦司、だまされる金持ち老人の次女に尾野真千子、長女に長谷川京子、小夜子と柏木を追う怪しい探偵・本多に永瀬正敏と、豪華キャストが嘘に塗れた前代未聞の人間悲喜劇に一同に会する。

大竹しのぶでしか考えられない天才詐欺師

たけうちんぐ 後妻業の女 鶴橋康夫 大竹しのぶ 豊川悦司 東宝
©2016「後妻業の女」製作委員会

 これは大竹しのぶの映画だ。彼女以外では考えられない。
年齢を超えた奇妙なあどけなさと、無邪気さの陰に見えるクレバーな佇まい。上品と下品を何度も行き来できるのは、この女優しか思い浮かばない。役者というただでさえ巧妙な“嘘”が吹き込まれた存在が、さらに“嘘”を重ねる。

「好きなことは、読書と、夜空を見上げることです…わたし、尽くすタイプやと思います」

 小夜子が読書するシーンも夜空を見上げるシーンも一切ない。その表情の白々しさといったら。ここまで罪悪感がなくて、お金持ちを次々とだましていく姿は突き抜けすぎて逆に快感を覚える。小夜子と柏木の嘘を観客だけで共有するのが楽しい。それが本多に暴かれていくことにスリルを感じる。と同時に、嘘つきが慌てふためく様子が笑えて仕方ない。と、「しまった!」側と「やったれ!」側の両方に感情移入できる。

 東京出身のはずの大竹しのぶが関西人と見間違えるくらいに大阪弁が達者で、このために習得したという役作りへの執念が伺える。原作は『後妻業』というタイトルだが、鶴橋監督が大竹しのぶへの賛辞を込めて『の女』を付けたのも納得の、彼女の魅力全開の作品なのだ。

小夜子の幸せはどこにある?

たけうちんぐ 後妻業の女 鶴橋康夫 大竹しのぶ 豊川悦司 東宝
©2016「後妻業の女」製作委員会

 嘘に塗れた物語でも、小夜子にだまされた中瀬、元木、津村、武内ら金持ちの老人たちが彼女に見せる笑顔には嘘偽りが全くない。小夜子がいかに嘘つきで、愛の欠片もなくお金を狙っていたことなんて知らないまま死んでいく。
知らぬが仏、というか知らぬまま仏になることはある意味幸せなのかもしれない。本作が描き出すのは“後妻業”の悪事だけではなく、その先で得るものと失うものだ。

 もし、小夜子が犯罪に手を染めることで純粋に幸福を得ているなら、救いようがない悪者に見えただろう。しかし、小夜子は多額の財産を手に入れても全く幸せそうじゃない。羨ましくなる要素が全くない。その家庭を見れば一目瞭然だ。
息子は顔を合わせば「クソババァ!」と罵る。部屋の中は高級品で溢れていても乱雑としている。ろくに料理も作れないし、本当に流したい時に涙を流せない。失った愛をすべてお金で埋め尽くそうとする彼女の姿は、どこか痛々しくて切ない。

たけうちんぐ 後妻業の女 鶴橋康夫 大竹しのぶ 豊川悦司 東宝
©2016「後妻業の女」製作委員会

 また、だましのプロであるはずの彼女だってだまされる。柏木から偽物のブランド品を貰って喜ぶ姿は、どこか親近感が湧く。そして、彼女でさえ虜にしてしまう不動産王・舟山がいる。だますはずなのに本気で愛してしまう。“驚異的なバケモノ”であるはずの小夜子でも、完璧な人間として描かれていないことに好感が持てる。

 女は金を求め、男は色を求める。人間とはかくに欲に溢れた生き物で、情に流されやすいのかが手に取って分かってしまう。
本作は最終的にお金で手に入らないものを描く。それが一体何なのか、それは小夜子の流せない涙がすべて物語っている。

ストーリー

 結婚相談所主催のパーティーで、金持ちの高齢者たちを虜にする小夜子(大竹しのぶ)。そこで出会った元大学教授・中瀬(津川雅彦)は惹かれ合い、結婚する。だが、2年後に中瀬は亡くなる。その葬式の場で、小夜子は涙を流すこともなく、中瀬の次女・朋美(尾野真千子)と長女・尚子(長谷川京子)に遺言公正証書を突きつける。その内容は、小夜子が全財産を相続するというもの。

 小夜子の言い分に納得のいかない朋美は友人の弁護士に相談する。そこで、小夜子が後妻に入ることで財産を奪う“後妻業”の女であることを知る。その背後には結婚相談所所長・柏木(豊川悦司)がいた。

 やがて探偵の本多(永瀬正敏)に依頼し、その悪事が次々と暴かれていく。だが、小夜子が不動産王・舟山(笑福亭鶴瓶)を本気で愛してしまい、本多の悪どい本性も現れ、事態は思わぬ方向へ向かっていく――。

8月27日(土)、全国ロードショー

監督・脚本:鶴橋康夫
キャスト:大竹しのぶ、豊川悦司、尾野真千子、長谷川京子、水川あさみ、風間俊介、余 貴美子、ミムラ、松尾 諭、笑福亭鶴光、樋井明日香、梶原 善、六平直政、森本レオ、伊武雅刀、泉谷しげる、柄本 明/笑福亭鶴瓶、津川雅彦、永瀬正敏
配給:東宝
2016年/日本映画/128分
URL:「後妻業の女」公式サイト

Text/たけうちんぐ

 次回は《エターナル・サンシャインの監督最新作!14歳の男子あるあるに悶え死ぬ『グッバイ、サマー』》です。

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たけうちんぐ
ライター/映像作家

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