もし私が男だったらフェミニズムに対して今どんな立場をとったか/峰なゆか・卒業♡アラサーちゃん

まもなくアラサーを卒業する峰なゆかさんが、アラサー世代を経た今だからこそみなに伝えたい、女道サバイバル術をエッセイとイラストでお送りする連載です。アラサー以降の方も若い方も、ぜひ参考にしてください!

『アラサーちゃん』と「フェミニスト」

『アラサーちゃん』の一巻で、私は私が「元AV女優だから」という理由で私に石を投げてくるキャラクターを指して「フェミニスト」と書いた。10年前のことだからそんな感じの認識だったし、今でもフェミニストと言えば三角メガネのPTAおばさんが「エッチなものはいけないザマス!!」的なことを言ってる印象の人もいるだろう。
そこから時間が立って、私の認識はどうやら間違っていたようだということに気付き、フェミニストと呼ばれる人たちの主張に、全部が全部というわけではないけどわりと同意だなと思う機会が増え、私が子供の頃からことあるごとに抱いていた「なんか変だな? なぜなのか?」という疑問 や、いま現在描いている漫画の題材がだいたいフェミニズムに関わっていることも分かってきて、だからこそ私は漫画の中でフェミニズムという単語を使うのを徹底的に避けた。
最終回も近い段階になってようやくヤリマンちゃんがフェミニストとして覚醒するエピソードを描いた。もう何年も前から描くか描かまいかぐだぐだ悩んではそのたび「描かない」という方針をとってきたものだ。それをようやっと「描く」に方向転換したのは、アラサーちゃんという漫画は現代の女子を取り巻くなんやかやについて描くようにしているものなので、今現在の女子を描くに当たって「フェミニズム」という単語を出さないのは嘘だと思ったからだ。

私の女友達には、正面切ってフェミニストだと名乗る子もいれば、「最近ポリコレとかウザいよな〜」という男の発言に笑顔で頷いたりしているものの女だけの場ではそういう男を罵る隠れフェミ二ストもいれば、私は女に生まれて得してるしフェミニストはぐちゃぐちゃ社会に文句ばっか言いやがってムカつくのでフェミ二ストを殲滅させるために精力的に活動をしているというアンチフェミの子もいれば、フェミニズムなんて興味ないしうるせえという子もいれば、とにかく色々な方向性の子がいるんだけど、どんな立ち位置にいたとしても、もう現代日本でフェミニズムのムーブメントに関わらないで生活するのは難しくなっている。
前述した「フェミニズムなんて興味ないしうるせえ」と言った子は、彼女がまったく興味を持てないフェミニズム関連の発言を、彼女がまったく興味を持てない選挙の街宣車に例えて「うるせえ」と言った。まったく興味を持っていないフェミニズム発言が、それでも街宣車並みのうるささで彼女の耳に入ってくるのが現在の状況なわけだ。それは男も例外ではなく。

もし私が男だったらと想像してみる

もし私が男だったらフェミニズムに対してどういう立場をとっていただろうかと想像してみる。 峰なゆた君35歳。 男のほうが給料が高く、男のほうが受験にも就職にも出世にも有利な現在の男社会を全力で守ろうとするだろうなと思う。現実にあるんだかないんだかよくわからない痴漢冤罪への恐怖や、レディースデーで女のほうが500円くらい得することへの怒り、プリクラコーナーに男だけでは入れないことなど諸々をさっぴいてもそっちのほうが断然得だから。当然だ。
でも表立って「男脳と女脳の違いが〜」とか「男には古来からの狩猟本能があり〜」などという発言はしない。アホだと思われるからだ。「差別は良くないですよね! でも現代日本にはもう性差別なんてないですからね!」などとしらばっくれるのも今はちょっと危ない。上司に「コイツにプロジェクトを任せたらそのうち絶対炎上する」と思われて重要な仕事を任せてもらえなくなる可能性が出てくる。
なので女性政治家が少ないこと、性的表現のゾーニングなどには一応言及しつつ、40代後半くらいまで独身生活を満喫したあと、同年代のイケてる男からは決して本命にしてもらえないがジジイから見れば超かわいい、若干頭のゆるい25歳くらいの女と結婚する。公の場では「年齢なんて関係ないよ。彼女の人柄を好きになったんだ」とかなんとかっつって、男だけの飲みの場では「きみんとこの嫁いくつ? 42なんだ。へえ。ちなみにうちの嫁まだ25でさ〜」とかっつって。そして父親が歳を取るほど子供が自閉症だと診断される可能性が上がる情報は見ないようにして精子ピュッピュし、2週間くらい育休を取る。そうすればアホだと思われないで済むし、むしろ女性の人権や育児に理解のある先進的な男性♡扱いされてますますお得な人生を歩めるからね! 

私は善人ではないので、自分が不利益被ってまで社会を良くしたいとか思わないし、かといって悪人でもないので自分と全然関係ない他人でも理不尽な差別をされていたら不愉快な気持ちになる。
例えば人種や国籍、性的指向を理由に嫌悪感を丸出しにする人に出会うと「うわっ、キモッ! 付き合いやめよ!」と思う。それは今現在社会的にそういう発言をする人はアホだと思われるということも分からないくらいの重度のアホとは関係を持ちたくない、という個人的な方針に加えて、同性婚が法的に認められても、丸腰の黒人が警察官に銃殺されなくなっても、私が損をすることはないからだ。
もし「経済格差を是正するため、高所得者の税率を爆上げしま〜す!」と言われた場合、その高所得者というのが私も入ってしまうようなショボい高所得者まで対象内であるなら私が損をするので全力で反対するし、私が到底無理な階層の高所得者を指しているなら、私は損をしないうえにそのぶんの税金で貧困家庭の子供が 栄養のあるご飯を食べられるようになったりするのであれば素晴らしいことですねと思うので全力で賛成する。当然だ。だから善人でも悪人でもない多くの男が、自分が損をする可能性が高いフェミニズムに対して敵対心を抱くのも当然のことだと思う。
その中でもネット上で熱心にアンチフェミ活動をするタイプの男は、「女って恐いよな〜(笑)」「ウチはカカア天下で(笑)」などと笑顔で話す男よりはまだ頭がマトモだと思っている。彼らは男に既得権益があること、それがいま失われつつあること、今後さらに失われていく可能性が高いことを知っているからだ。プライベートの時間を割いて、日々フェミニズム情報をチェックし、世間から重度のアホだと思われるリスク引き受けてまで、全男性の利益を守るため活動する。アホだと思われない範囲内で自分だけ甘い汁すすろうとする峰なゆた君よりよほど善良な心持ちなのではないでしょうか。