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  • 2016.10.28

「私が欲しいのはモノじゃなくて…」/紛れもなく10代だった vol.4

「プレゼント」―それは、あげる人のことを想いながら選んだかけがえのないモノ。さらに、好きな人からのプレゼントなら詰まっている想いの大きさは…今回は、プレゼントを送る/貰うシーズンが近づいてきたこの時期だからこそ読んで頂きたい、さえりさんのショートストーリーです。

紛れもなく10代だった さえりさん
by mariadelajuana_1

 塾での自習を終えて帰ろうとした瞬間、マサルに「あ」と呼び止められた。
白々と光る蛍光灯のした、教室の中心で二人は向き合い、サチはマサルの次の言葉を待つ。

 ポケットに手を突っ込んだマサルは「これ」とぶっきらぼうに手を差し出す。その手のひらから出てきたのは可愛いハイビスカスのストラップだった。

 目をぱちくりさせて驚いていると、マサルは続けて「この前、みんなで遊びに行ったから」と言った。マサルが、わたしのために、お土産を。

 彼の話によると、クラスメイト男女6人で隣の県にある遊園地に遊びに行ったのだという。その遊園地はさびれていて、特別に愛されるキャラクターもいない。
けれど田舎者の中学生たちが遊びにいくにはちょっとした旅行くらいの高揚感があった。

「で、なんか、お土産買いたくてさ」とマサルは下を向いて鼻をすすった。黒の学ランの袖は少し短く、日焼けした腕が覗いている。

「あ、ありがとう……」
小さな台紙の上でゆれるハイビスカスのストラップは、花がいくつも重ねて束ねられていた。淡いピンク色が何層にも重なるそれは可愛らしく、ストラップが大量につけられたサチのスクールバッグにもすぐに馴染みそうだった。

 マサルが、わたしのために、お土産を。
その言葉を何度か頭の中で繰り返していると「気に入らなかった?」とマサルが聞く。

「ううん、嬉しすぎて。……すぐ付ける!」とストラップの入ったビニール袋をバリッと開けると、マサルが「ほんと?」と小さく喜ぶのがわかった。はやる気持ちでスクールバッグの取っ手にくくりつけよう、とした時、マサルが口を開く。

「そうだ、あともうひとつこれも」

 いかにも「ついでに」という口調で差し出されたのは、これまたストラップだった。黒の皮でできたそれは端が茶色の糸で縫われており、お世辞にも可愛いともイケてるとも言い難い代物だった。どちらかというとお父さんへのお土産という感じ、とサチは一瞬思う。

「ふたつもあるの……?」

「そう。さっきのハイビスカスは、同じクラスの女子に選んでもらった」

 ぴたりと動作が止まる。

「え……?」
「いや、おれ、女子のものとかわかんないから。で、こっちはおれが選んだやつだから、いちおう

 左手に握ったハイビスカスのストラップが、手の中でぐらぐらと揺れるような気がした。
教室の真ん中に二人で立っていることが急に滑稽に思え、泣き出しそうになる。
なんで、そこにいた女子が選ぶの。それはその子が好きなものじゃん。その子はわたしじゃないじゃん。
可愛いストラップなら自分で買いに行く。遊園地まで行かなくても、近所のショッピングモールで自分が好きなものを買うのに。

「でもよかった。俺が選んだやつより、そっちのが似合いそうだし」

 マサルはサチのスクールバッグをじっと見つめ、うんうんと小さく頷いている。
その様子を静かな気持ちで見つめ、自分でも説明がつかない悲しい気持ちが胸を覆い隠すのがわかった。
ハイビスカスと黒皮のストラップを交互に見つめる。さっきまで可愛いと思っていたハイビスカスが急にチープな作りに見えた。
そうしてサチはようやく言うべき言葉を見つける。

「でも、わたしこっちの方が好き」

 ハイビスカスのストラップを丁寧にビニール袋に戻し、マサルにもらった黒のストラップを鞄にくくりつける。ゴテゴテとしたストラップの中で、黒皮は妙な存在感を放っている。

 マサルは「え、そうなの?」と驚いたあとは何も言わなかった。サチもまた、何も言わずにストラップを眺めた。

 次の日、親友のミカが「え、何このストラップ」とマサルがくれたストラップを指差した時もサチは臆さず「すてきでしょ」と言えた。
実際、サチにとってそのストラップは他のどんなものよりも輝いて見えた。
可愛いストラップも好きだけれど、これはこれで素晴らしい。
黒で渋さがあって上品だし、皮で作られているところも大人っぽくていい。
それになによりこれがひとつカバンにあるだけで、カバンについたいろいろなものがグッと引きたつようにも見える。

「えー、そう?」とミカが怪訝な顔をしている間じゅう、サチはにこにことしていた。

 数年後、サチは実家でそのストラップを見つける。引き出しの奥から出てきたそれは、やはりお父さんへのお土産がふさわしいような佇まいだった。
なぜこんなに黒皮のストラップが愛おしかったのか、少し考えてサチは携帯を取り出し、マサルに連絡をする。

「これ、覚えてる?」

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私のために使ってくれた時間までがプレゼント

 好きな人からもらうプレゼントの嬉しさは「モノの良し悪し」ではなく「彼が自分のためにくれた時間にある」、とわかるようになったのはだいぶ後だった。

 今回のお話はわたしの体験に基づいて書いたものなのだけれど、当時「かわいい」と思ったストラップが他の女子が選んだものであるとわかった瞬間の言いようのないあの気持ちは、今でも忘れられない。腹立たしく、そして単純に「イミワカンナイ」と思った。何がそんなに嫌だったのか今になればわかる。

「わたしのためのプレゼントを他の人に選んでもらって、どうするのよ」ということだったのだろう。
そんなの全然意味がない。好きなストラップくらい、自分で買えるんだもの。「あなたのためを考えながら選んだ」というところまで含めてプレゼントなのに。

 10代のころ、男性はこういう失敗をしがちなように思う。友達に選んでもらった、女友達についてきてもらった、などとよく大学生くらいまでは話を聞いたものだった。もちろん「喜んでほしいが故」なのはよくわかるのだけれど、これぞ空回りである。

 誰か知らない女が選んでくれた、女子ウケ抜群の「ジェラピケのパジャマ」よりも、「これ、好きかな」と思ってと照れくさそうに渡してくれる「子供っぽい星型のストラップ」や「匂いがいまいちな香水」なんかのほうが断然嬉しい。

 一生懸命に自分のことを考えながら選んでくれたというその事実が、ラッピングされているように思う。もらったモノを見るたびに彼が一生懸命頭を悩ませたその時間が上乗せされ、見た目以上に愛おしく思える。それこそがプレゼントの良さではないか。

 中学2年生の頃、付き合っていた彼にもらったあのストラップは今でも引き出しの奥に眠っている。一緒にもらったハイビスカスのストラップは、もう見当たらない。

Text/さえりさん

ライタープロフィール

さえりさん
ライター。何気ない日常にストーリーを生み出すことが得意。

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