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  • 2016.12.31

メンヘラとの別れ話の鉄則は…「付け入る隙を見せたら負け」

お引越しで家具を移動したとき、棚がパンチで壊された跡を見つけた大泉りかさんが思い出したのは、別れ際に揉めまくった元彼のこと。感情論と暴力的な脅迫でごねてくるメンヘラ彼氏を相手に、話し合いで解決しようと思ったのが運の尽きでした……。厄介な恋人と別れるときの鉄則をAM読者のみなさんにご紹介します。

壁のへこみでフラッシュバック

大泉りか 人妻は不倫の夢を見るか?
by Momonator

 先日、夫と同棲時代から七年間住んでいたアパートを出て、ちょっとだけ広いマンションに引っ越しました。
狭い上にお風呂はバランス釜。上は中国人夫婦でよく大声で揉めているし、隣のアパートはアラブ系の若者が住んでいるために夕方になると辺り一面にスパイシーな匂いが立ち込める。けれど、混沌とした雰囲気がとても気に入った住まいだったのですが、とにかくモノが多くて、これからの育児のことを考えると、にっちもさっちもいかないことから、引っ越しを決心したのでした。

 その引っ越しの最中のことです。引っ越し業者のリーダー格の若い男性(ちょっとしたイケメン)が仕事部屋に置いてあった資料入れの棚を持ち上げて移動させた際に、「すみませーん!ちょっとこれ、見てもらってもいいですか」と隣の部屋で片付けをしていたわたしを呼んだのです。
以前の引っ越しの際に、ベッドを移動させたらピンクローターが落ちているのを発見されて、気まずい思いをしたことがあったので、「今度は何だ、何が出てきた?」と、いそいそと仕事部屋に向かったところ、今まで壁に隠れていた棚側面のへこみを指され、こう言われたのです。「この棚、ここにパンチされて壊れた跡があるの、一応確認しておいてください」と。

 いま思えば、さらっとスルーすればいいだけのことです。けれど、その時は「パンチされて壊された跡」という言葉に心を掻き乱されて「あっ、わかりました……これ、パンチの跡ですかね」と思わずくりかえしたわたしに、リーダー格の男性が「そうですね~、たぶん。高さ的にパンチされた跡ですね」とくりかえすと、もうひとりの引っ越し業者の若者(こっちもマッチョなイケメン)も「うんうん」と頷きました。
ああ、恥ずかしい……顔が熱くなるのを感じながら、「あれっ、壊れてました? あ、でも、新居に持っていってください」と頼み、部屋から運び出されている最中に考えていたのは、別れ際にさんざん揉めた元の恋人のことでした。

メンヘラの別れ際は「往生際が悪い」!?

 それまで、付き合っていた男性と別れるという時に、修羅場になったことはありませんでした。うっかりと千葉のヤンキーと付き合った時に「十人に姦されるか、二十万用意するかだ」と脅されたという、ちょっと違った種類の修羅場こそあったもの、「別れたくない、別れない」とごねられたことは、それまでなかったのです。

 なので、その人に「別れたい」と告げた際に、さんざごねられたのは衝撃でした。「ずっと一緒にいると約束をした」「心変わりするだなんて、酷いじゃないか」とこちらの非を訴えかけたと思ったら「いきなり別れを告げられても受け入れることなんて出来ないに決まっているだろ」と感情論で責めてくる。かと思えば、「なんでなんだよ!」と大きな声を出してあたりのものを、殴ったり放り投げたりして脅すものだから、万が一を想定して包丁を隠したりもしました。

 心変わりは当然にあり得ることです。「わたしへの愛があるなら、それを受け入れろ」なんてことは、さすがに言いません。ただ、わたしは自分の矜持として、人に別れを告げられた時は、受け入れたいと思っているタイプです。
そこまで感情とエゴを剥き出しにしてイヤイヤしてくる人のメンタリティが理解できず、目の前にして、どう対処すればいいのかと途方に暮れました。だって、いくらごねても、結局、振られるほうには最終的には「諦める」という選択肢しかないのです。しかし、向こうはそれが出来ないという。
けれども、いくら出来ないといっても、成人した大人です。だからわたしは、話せばわかるはずだと信じていました。対して元恋人も、「話がしたい」「話を聞いてくれ」と何度もわたしに訴えかけました。
「話をする」ということでわたしたちの思惑は合致し、話し合いを続けることになったのですが、しかし、結論からいうと、その選択は大間違いでした。

 というのも、わたしが話を聞くのは、「相手の心の整理をつけて諦めてもらうため」です。しかし、相手がしたいのは、「おだてなだめごねて、別れるというわたしの決意を翻すこと」なのです。
冷静な話し合いなど望むべくもなく、自分勝手な人間だと謗られたり、泣き落としにかかられたり、発作みたいなのを起こされて、こちらが優しくせざるを得ない状況を作られたりと、話せば話すほど、互いの神経は消耗していくばかり。
「なんで話してるのに、わかってくれないの!」なんてキレようものなら、さらに10倍くらいのパワーでもって、自分の意を通すためにゴネまくるのだから、メンヘラ恐るべし(あっ、言っちゃった!)。

鉄則:「付け入る隙を与えるな!」

 そんな日々をくりかえす中で、ある時、向こうが激情に駆られて「出ていけ!」といったのを良いことに、実家に戻ったわたしのところには、それからも毎日のように「話がしたい」「話を聞いてくれ」「お前には話をする義務がある」と電話が掛かってきました。
最初は付き合っていたものの、次第にうんざりして出なくなると、今度はメールが届くようになりました。
けれども、それにも反応しないでいたところ、半年ほど経って、わたしの両親宛に「(一緒に住んでいた)家を出てくので」と連絡があり、ようやく別れることが出来たのでした。

 残された荷物を片付けるために、一緒に住んでいた家を戻ると、壁に凹みや血のようなものの飛沫がありました。棚の穴にも、その時に気が付いて、新しい恋人と暮らす部屋に運んだ時に、その穴を隠せるような向きで設置した記憶もうっすらとあります。今回、穴を目にするまでは、すっかりと忘れていたことでしたが。

 感情のコントロールが出来ない元恋人との別れからわたしが学んだことは、「話を聞いても仕方がない」ということでした。可哀想、申し訳ない、自分にも悪いところがあるという罪悪感に苛まれたりもするけれども、そんなことを思えば自分自身が相手に付け込む隙を与える――隙なんていうと、非道な言いぐさです。けれど、相手の希望をきっぱり毅然とした態度で絶つことこそが、互いのため。未来へ進むためには必要なことだと思うのです。

Text/大泉りか

ライタープロフィール

大泉りか
キャバ嬢、SMショーのM女、ボディペインティングのモデルなどの経歴を経て、現在は官能小説家、ライトノベル作家。

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