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  • 2018.03.08

演出家・鴻上尚史さんに「色気を出す方法」を聞いてきました(前編)

「色気」があるとかないってどういうこと?定義や条件は?色気を出すにはどうしたら?考えてみると分からない「色気」について、『あなたの魅力を演出するちょっとしたヒント』の著者でもある、演出家の鴻上尚史さんにお聞きしました。

 私たちは色気について、「あの人は色気がある(ない)よね」など、「色気」そのものの定義や条件が具体的にどういうものか分からないまま、話しています。しかし、なにかしらの共通認識を抱いていることは間違いありません。
私たち編集部は、非言語である「色気」を演出家の鴻上尚史さんの場合はどのように捉えているかを伺いました。

1日にどのくらい色っぽいことを考えているか

『あなたの魅力を演出するちょっとしたヒント』著者の鴻上尚史さん画像
鴻上尚史さん

―― あの人はなぜか色気があるよねとか、日常的に色気については話したりしますが、そもそも色気とは何か?というのが特集のきっかけです。『あなたの魅力を演出するちょっとしたヒント』を拝読して、色気のヒントも鴻上さんはご存知かもしれないと思い、依頼させていただきました。

ははは、面白いね。女優さんや女優見習いからも、「色気がないんですけどどうしたら出ますか?」って質問を受けるんですよ。

――どうやって指導しているんですか。

まず、「一日どれくらい色っぽいことを考えてる?」って聞きます。
今日は何食べようか、何着ようか、といった日常生活を考えている時間の中に、どれだけ「色っぽいこと」を考えているか確認するんです。

―― 「色っぽいこと」とは具体的にどういうことでしょう。

たとえば、目の前に自分の好きな男の人がいるとして、その人にどんな風に抱きしめられたいとか、どんな風に髪の毛を触ってもらいたいとか、どんな風にキスをされたいかといったセクシーなことですね。そういうことを、一日に数分でも具体的に考えているかと尋ねると、だいたいみんな「あっ」て顔するんですよ(笑)。

―― 私も一瞬どきっとしました…セクシーな想像ってけっこう難しいです。ぱっと言われても出てこないというか、私は日頃からあまり意識してなかったです。

これはスポーツ界が先に気づいたんですが、脳内でリアルにイメージすると実際に上達してくるんです。それもただぼんやりと、アバウトにイメージするのではなくて、ボールの硬さとか重さとか、目の前に誰がいるかということまで具体的に落とし込むことが重要です。
色気も同じで、誰に対して、どうやって、どういうシチュエーションで見つめているのか、抱かれているのかを脳内で具体的にイメージしていくと、色気の精度というものを捉えられると思います。

――セクシーなことをイメージすれば、色気は自ずと出てくるもんなんですね。

僕がイギリスの演劇学校に留学していた38歳の頃、オランダから来たメダという女の子に出会ったんです。ある時、ただベンチに座って、自分の好きな公園や季節をイメージするレッスンの最中に彼女がむちゃくちゃ色っぽく見えたので、授業が終わった後、思わず駆け寄って、どうやっているのか聞いたんです。そしたら、恥ずかしそうに微笑んで、「頭の中でボーイフレンドとベッドインする過程をずっとイメージしてたんです」って。だからあんなにも色気が出ていたんだなって僕も感心したんです。

―― まさに、メダさんがイメージしていたことが、色気を醸し出していた、と。

やっぱりその人が今何を感じているか、今何を求めているかが表面に滲み出てしまうからだと思います。
デジタル全盛期になっても、演劇やライブコンサートが滅んでいないのは、同じ空間で目の前の生身の人間から零れ落ちるものが確実にあるから、その人のエネルギーや生き方がビシビシ伝わってくる。だから、劇場やホールに足を運んでいると思うんです。

自分が愛する“ひとりの人”にとっての色気を追求する

―― セクシーな想像を具体的にすることが重要だということですが、やはり性とはどうしても切り離せないということでしょうか。

うん、やっぱり性的なことなんじゃないかな。昨今はLGBTの問題など、子どもを作る作らない選択の自由はあるけれども、DNAを残したいという生存本能と直結した行為をしたくなる相手、またはそのハードルが低い相手に惹きつけられていく。それが色気だと僕は思います。ただ注意しなければいけないなのが、下品な色気というものがある。

――陥りやすい問題ですね。色気というとすぐエロさに直結して、対象の相手にガツガツいくことを連想します。

男がよく言う「すぐやらせてくれそう」とか「お尻が軽そう」な雰囲気を匂わす人って、僕のいる周辺の業界には多いんですよ。“みんなの恋人“として売られるし、ちょっと太ったら文句言われるし、水着の仕事では谷間を作るように言われてしまう世界なので。性的なことと何かを引き換えにするように、自分を“商品”にしてしまうと、色気とはまた違ったものになってしまいます。
「あなたと性的な関係を作りたい」という態度ひとつでも、「これから先うまく恋愛を進めて、結果、子孫を残したい」と示唆しているのか、「どうです?いい商品でしょう。これは高いのよ」と接しているかでだいぶ違ってきますよね。男も馬鹿じゃないので、後者だと分かったら一回味わって商品としてはもう飽きました、となってしまう。

――男性も見抜いているってことですね。

だから、自分の愛するひとりの人にとって、魅力的に、色っぽくなるにはどうしたらいいかを考えられればいい。
男はこうだ、と一般化して決めつけるのではなく、たとえば胸を押し付けても、星野源さんなら逃げ出すだろうなとか、高橋一生さんだったら説教しそうだなとか(笑)。必ずしも喜ぶわけじゃないと分かってくるでしょ。

――ひとりの人を相手に具体的にイメージしたら、モテテクだけに頼る必要もなくなりますね。

これはもちろん女性だけじゃなくて、男性でもよく「俺のテクニックは女性を喜ばす」みたいに言う人がいるけど、一般化するんじゃないよって言いたくなります。男性が全員違うように、女性も全員違うわけだからね。
でも中には、そもそもどんな風に抱きしめられたいか、どんな風にされたら心が高揚するか、が全くわからないっていう人が出てくるんです。

――そうですね、そこは今の世の中でひとつのハードルになっているような気がします。

男はすっごい単純なんで、裸の写真さえあればOKというくらい守備範囲が広いんですよ。でも女性はたぶん、千差万別だと思うんです。
たとえば、マスターベーションをするとしても、それ以前に、自分が一体どういうものに性的興奮を誘発されるのか向き合うといいです。外国のスターなのか、レディースコミックなのか、実在する同僚とかクラスメイトなのか、それともまったく顔が見えないシルエットなのか。そうやって、自分の中で性的に興奮できるものは一体なんだろうって突き詰めていくことは、大切なことだと思います。

―― 性的興奮を突き詰めていくことって、日本人は特に苦手なイメージがあります。

特に真面目な子ほど、母親や周囲の影響を刷り込まれているからでしょう。
「男はオオカミであなたの体が目当てで、うかうかしてるとひどい目に遭うから性的なことを考えてはいけない」と教え込まれる。でも本当に大切なことは、母親になんて言われようと、「あの人はオオカミでもなければ私の体だけを求めてる人でもなくて、私はあの人のことが好きで他の人とやるつもりはありません」と言えること。
とにかく欲には蓋をすること、親の言うことを聞くことが第一になってしまっている人、多いんじゃないでしょうか。僕は、それが日本では色っぽさが苦手だったり否定する人が多い原因のひとつでもあると思っています。

【後編へ続く】

鴻上 尚史(こうかみ・しょうじ)

作家・演出家。1958年愛媛県生まれ。早稲田大学在学中の81年に劇団「第三舞台」を結成。以降、作・演出を手がけ「朝日のような夕日をつれて」「ハッシャ・バイ」「天使は瞳を閉じて」「トランス」などの作品群を発表する。
2011年に第三舞台封印解除&解散公演「深呼吸する惑星」を上演し、現在は、プロデュースユニット「KOKAMI@network」と、2008 年に若手俳優を集め旗揚げした「虚構の劇団」を中心に活動。これまで紀伊國屋演劇賞、岸田國士戯曲賞、読売文学賞など受賞。
舞台公演のほかには、エッセイスト、小説家、テレビ番組司会、ラジオ・パーソナリティ、映画監督など幅広く活動。また、俳優育成のためのワークショップや講義も精力的に行うほか、表現、演技、演出などに関する書籍を多数発表している。
近著に『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか 講談社現代新書』がある。

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