季節にちなんだ浮世絵で、四季を楽しむ
だんだんと春の陽気になり、何枚も重ね着して窮屈だった身体からも解放され、気持ちまで軽やかになります。
今年も桜の開花の時期が近づいて参りました。しかしながら今年もお弁当を持って行楽地に出かけようとは、なかなかできないものです。お散歩がてらに近所の桜を見るくらいにしようと考えている方もいるのではないでしょうか。
日本には四季があり、ここに生きる人の営みは常に四季とともにあります。ですから江戸期の浮世絵には季節にちなんだ行事、植物や動物も描かれており、季節に合わせた浮世絵を鑑賞することは四季をたのしむ方法のひとつになります。
今回はみなさんと一緒に春画に描かれた春と人間の営みを鑑賞していきます。
「三月」「茶臼」「白酒」をかけ合わせた春の春画
夫婦が窓から桜を眺めながら交わりを楽しんでいます。枕元には酒の肴や煙草盆があることから、ふたりはゆったりとした時間を過ごしているのでしょう。
オトコ「なんぼ三月でもあんまり白酒臼(しろざけうす)のようだ。この後でまた、本当にしよう。」
オンナ「どうもこんな姿勢では具合が悪いから、本当にしてくんなよ。もうマラが外れそうだわな、ええ、もう。」
座位の体位ではマラが外れそうだから、本チャンのガチの交わりをまた後で楽しもうということらしいです。彼らの交わりはこの後も日が暮れるまで続くようです。
江戸期の春本では、女性の白い愛液を白酒にたとえることがありました。「白酒」は桃の節句(三月三日)で、ひし餅とともに欠かせないお供え物。当時の白酒は、よく精白したもち米を蒸して、しばらく味醂(みりん)に浸しておき、それから味醂を注ぎながら碾き臼(ひきうす)で挽いてドロドロにした飲み物でした。もちろん甘くて顔がぽっと桜色に染まる、祝いの日に持ってこいの酒だったようです。
上で紹介した春画の「三月」という季節と快楽とともに流れ滴る「白い愛液」から、「白酒」を連想し書入れ(画中の会話)を書いたのだと思います。また、白酒は臼(うす)で挽いてつくられるので、「茶臼(ちゃうす)」と呼ばれた座位の体位を描いたのでしょう。きっと当時、この春本を見た読者ならば「三月」「茶臼」「白酒」の掛け合わせの面白さにすぐ気が付き、「うまい!」と笑ってこの春画を楽しんだことでしょう。
江戸の人たちは三月になると、酒商豊島屋の目玉商品である“桃の節句用の白酒”を買いに走ったようです。豊島屋では毎年二月二十五日頃になると白酒が売り出されるのですが、あっという間に売り切れるという焦りから、客が転んだりケガをすることがあり、あらかじめ医者を待機させて手当していたほどだとか。(まじで?!)
『江戸名所図会』に描かれている豊島屋の白酒を求める光景を見ると、その人混みに圧倒されてしまいます。店の近くには半日も経たないうちに酒の空樽が山のように積まれたそうです。
もう! もう! とにかく白酒といえば「豊島屋!」
人々は他店ではなく、豊島屋の白酒で桃の節句を祝いたかったのです。
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