相手をメロメロにするには?江戸期に性のハウツー本が広まった背景/春画―ル

相手をメロメロにしたい事情

春画―ル所蔵

古来より性に関するハウツー本は様々あり、とりわけ「相手をメロメロに満足してもらう方法」が記された本は既に江戸期に存在していた。

今回は2種類の江戸期の性のハウツー本より「相手をメロメロに満足してもらう方法」を抜粋し、その方法を現代風に読みやすくして紹介する。 また、このようなハウツー本が生まれた背景にはどのような価値観が存在していたのだろうか? 当時の「相手をイかせたい理由や事情」が人それぞれであったことにも注目したい。

「男女狂訓 花のあり香(だんじょきょうくん はなのありか)」(1864年刊行)

春画―ル所蔵

今回紹介する『男女狂訓 花のあり香(だんじょきょうくん はなのありか)』(1864年刊行)は当時の奥様向けに、夫が一度のセックスで身体も心も満足するにはどういった流れで前戯や挿入をすればよいか? といった内容が掲載されている。

江戸期のこの本が刊行された当時、セックスが大好きな夫がいる奥様は「頻繁にはちょっと、夜のお相手ができない……」という方ももちろんいたようで、当時の女性たちの悩みに寄り添ったものにもなっている。

交わりがスタートし、序盤では男性が自分のアソコを手マンしてくるところから挿入までの一連の流れが書かれている。

《現代訳》

男性が前戯をしたり、手マンをする腕が疲れてきて、そろそろ挿入がしたいという気持ちが高まってきたら、そのまま正常位で程よく挿入し自分の両足で相手に絡みつき、両手は首筋に絡めつける。口を吸い鼻息せわしく高よがりすべし。

もし挿入により自分も気持ちよくなってきても、まだ満たされていない素振りを見せ相手に抱きつき「アレサ今(気を)やつてハいやだヨ、モウしんきナ、せつかくいきかけているものを、人の気もしらないでエ、にくらしいアレもつと、そこを」と言いつつ相手に絡めつけている手足にぎゅっと力を入れる。

という流れで挿入が進んでいく。

春画―ル所蔵

つまり相手に「わたしは感じているよ、気持ち良いよ」というのを行為中に伝えることや、若干の駆け引きをするようにと書かれている。

さらに、

挿入中に自分の腰を左右に振り、股を相手側にこすりつけ相手にしがみつき「アア、モウいまいくヨ、ソレもっと、そこをそこを、どうしようア、モウ、うれしひヨ」と夢中のごとく世迷言を言って玉茎なえるまでこすりつける。

男根のカリ先こそばゆく、早くに生麩にように男根は芯から柔らかくなり、なおも相手を抱きしめ玉茎が十分に縮むまで続ける。

このようにすれば一回の交合でじゅうぶんに堪能してもらえる。

挿入中に自分の腰を左右に振り、股を相手側にこすりつけ相手にしがみつき「アア、モウいまいくヨ、ソレもっと、そこをそこを、どうしようア、モウ、うれしひヨ」と夢中のごとく世迷言を言って玉茎なえるまでこすりつける。

男根のカリ先こそばゆく、早くに生麩にように男根は芯から柔らかくなり、なおも相手を抱きしめ玉茎が十分に縮むまで続ける。

このようにすれば一回の交合でじゅうぶんに堪能してもらえる。

春画―ル所蔵

実はこういったハウツー本は夜の営みに悩みを抱える奥様たちだけでなく、女郎(遊廓や宿場などでお客に性のサービスを提供する仕事をする女性)の方々にも向けたものでもあるのだ。

つまり職業などに関わらず、当時の同じ悩みを抱えるすべての女性に向けて書かれたものなのだ。

それはなぜか? その理由を著者は冒頭でこのように述べている。

《現代訳》

全ての女性は気を遣る(オルガズムに達する)ことが少ない。

愛を以て女郎も全盛となれば、一昼夜で客と交わる回数は少ない日は5~7回、多い日は14~15回に及ぶという。

また、性に関する仕事をしていない女性でも交わりが好きな亭主を持つと男性の求めるままに昼夜問わずに行えば病にかかる女性は世間に多い。

女郎がお相手をする客によっては、一回の接客で何度も交わりが行われる。そのため一回分のセックスの質を高め、お客に満足してもらうことで挿入の回数を減らす目的もあったようだ。

昼夜問わずに相手に求められら分だけ営みをともにすれば、女性たちは体調を崩してしまう可能性があったこと、そういった悩みを抱える女性がいたことが江戸当時の本より読み取れる。 しかもこの方法を行うことの効果を著者はこのように述べている。

まして勤の妓達(ひめたち)はハ、此交接にして客を帰さバ、いよいよ蕩気て(のろけて)通ふこと、女交接の極秘伝といふべし。

「この方法を行えば、お客はメロメロで自分のことをご贔屓にしてくれる極秘伝である」

この極秘伝が書かれた本が当時どれほど読まれていたのか気になるところである。