豹変した部下に襲われて…
「やめて、やめてください、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
気づくとただそう懇願していた。お互いの立場だとか損得だとか、余計なことを考える理性的な思考回路は完全にストップしていた。ただ本能的な恐怖と、懇願と、服従。
「お願いします、なんでもしますから、ごめんなさい」
――そして欲情。
絢人は振り上げた手を私の下半身に向けて下した。めくれあがったタイトスカートの下、ストッキングの中へ掌を差し入れる。既にショーツはぐしょぐしょに濡れていた。
「……すげぇ濡れてるじゃん。感じちゃったんですか」
呆れ果てたような口調で、彼は私を嘲笑った。
(『ゆっくり 破って』P38L5-P39L12)
この日をきっかけに、部下の絢人と『ご主人様』と『奴隷』の関係を結ぶこととなる理津子。
処女喪失と同時にSMというディープな世界へと足を踏み入れることとなった理津子ですが、次第に変化していきます。
ご主人様である絢人への恋情から、言いなりだった両親に反抗し、嘘をつき、家族への秘密を蓄え、娘からひとりの女へ自立するのです。
SMは大人になるために通過儀礼だった?
恋の持つ凄まじいパワー。それを知っているからこそ、親は娘の恋を封じるのでしょう。
が、しかし、『恋』というほどの熱量を持たず、また、両親へ罪悪感も抱かないまま、バージンを失くしたわたしは、処女を失ってもまだ娘のままでした。
そんな、通過儀礼に失敗して、ひとりの女として自立するタイミングを失ったわたしが、次に出会ったのがSMでした。
SMにハマり、両親には絶対に言えない背徳的な行為を繰り返していくうちに、気が付くとわたしは娘から大人の女へとなっていたように思えます。
SMはわたしにとって、大人になるための洗礼だったのでしょう。
ならば、それと同時に不思議とスッコーンとSMへの興味が薄れたこと……切実な必需品から、自分の性欲をあやすための嗜好品へと変化したのは自然の理かもしれません。
さて、本編の続きに話を戻します。理津子に与えられたこの『調教』は、実は緻密に張り巡らされた罠であり、すべての始まりは十年以上も前にあったのです。
そのきっかけを知った時に理津子が取った選択とは――。
「もしかしてすぐ隣にいるかもしれない……」と思ってしまう登場人物、最後の一行まで飽きさせないスリリングなストーリー展開、そして女による女が濡れる官能描写。
まさに大人の女のためのラブストーリーといえる一冊。秋の夜長にぜひ、ベッドの中でお楽しみください。
『ゆっくり 破って』
著:深志美由紀
イースト・プレス
Text/大泉りか
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