セックスという『おつとめ』から引退したい、と告げた夫
ある日、夫の宗太郎からセックスという『おつとめ』から引退をしたいと告げられた、アラフィフのビーズアクセサリー作家の武子。
久々にバツイチの女友達、香穂との会食で思わず愚痴を口にする。
すると、香穂がこっそりと秘密を打ち明け出して――。
「あたし、セックスだけはふっきれてなかったんだね。自分で勝手にすごくあせって。今ならまだ間に合うかもしれない、結婚はムリとしても、ここで何とかしなきゃ一生引け目に感じてしまうかもって。それでセックスすることにした」
「することにしたって、どうやって」
「変わったこと始めた人がいてさ。ネットで相手を探すってトラブルの不安があるし、男を買うのは気が進まなかったりするでしょ。でね、セックスだけしたい大人を集めて、結婚相談所みたいに引き合わせてくれる会があるわけ。入会金もあるし、交渉が成立したらお金を払うのも結婚相談所と同じ。違うのは、相手を何回でもとっかえひっかえしていいこと。紹介制で、会員になっている人が身元保証人にならないと入れないから、怪しげな人はいないし、その点が一番安心なんだよね」
「結婚してる人も入れるの?」
私は反射的に聞いていた。
「そっちがほとんど。だから秘密結社的」
(中略)
「セックスしてみて、どうだった?」
「気持ちが落ち着いた」
香穂は、座禅や写経の体験をした後みたいな発言をした。
(『甘いお菓子は食べません』収録『花車』P59L18-P60L17)
夫とのセックスは諦めて他所で身体を満たすのか─
まさに渡りに船、ともいうべき情報を手に入れた武子。セックスをすれば自分は悩みから解放されるのか、と訝しみながらも、その心の中に広がる淡い光に満ちた救いのイメージ……。
しかし、すぐに会に申し込むほどに武子は自由でも奔放でもありません。
『夫とのセックスは諦めて他所で身体を満たす』のか、それとも『諦めずに夫との再構築を目指す』のか――
武子の選択と、その理由に心が締めつけられるような気持ちになりました。
パートナーとのセックスレスで悩んでいる貴女はもちろんのこと、多くの女性が共感を持って楽しめる一冊です。
Text/大泉りか
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