不完全燃焼セックスを避けるためにはどうしたらいい?
『四手(よつで)』や『袋入れ(ふくろいれ)』のように、愛の形として現れているときだけがセックスじゃない。まるでカプチーノのフワフワミルクのように甘い関係だけじゃなくて、エスプレッソみたいに苦いときもある。
1760年代、今からおよそ260年前に出版された『新撰古今枕大全』は、恋愛タイプ、恋愛結婚の必勝法、性愛体験談を笑いとともに紹介した書物である。今読んでも面白い書物なのだが、セックスにおけるパートナーとのすれ違いも書かれている。
翻刻では読みにくい方もいると思うので、現代風に要約したのがこちら。ここでは女性の視点から書かれている。
男性はセックスにおいて、女性がその気になっているかどうかを察することができる人が少ない。
女性は「早くしたい」とは言えないから相手に目で合図したり、すり寄ったりする。
もしあなたが女性の「セックスしたい」の合図に途中で気が付いても、慌てずに落ち着いて彼女と会話をしながら相手のお腹や背中をさすったりして事を進めること。
段々と女性が恥ずかしさも忘れて乱れてきてもそれに気を取られないように。
うまくない男性は「おんなは奥深くまで挿入すればよがる」と思い、むやみに奥を突いて、いきなり腰をつかう。
女性は「ああ、このひともうイくな、わたしまだ気持ち良くないんですけど。」と思っても「まだして欲しいし、気持ち良くなりたい」と男性に言えない。
女性は結局、長崎までイク予定なのに、兵庫や広島辺りまでしかイケない。
男性は相手を堪能させた顔つきになってフィニッシュ。
女性は「まだ続けたいよ」と相手に言えなくて、そのまんま果てた相手と睡眠時間になるがモヤモヤして寝れない。
うーーん、セックスしたいのに相手に言えないすれ違いと、もっと気持ち良くなりたいのに言えないままセックスが終わるすれ違い。これはなかなかしんどい…..。
というか、260年前からこんな悩みが存在しているなんて….!
このセックス中のすれ違いについて『新撰古今枕大全』では、「セックスで大切なのは秘薬を使うことでも性器の大きさでもなくテクニックだ。床に入っていきなり女性の股を触るなんてとんでもない」などの文とともに、女性も共に気持ち良くなれるようなテクニックを紹介している。
そして「もし夫ができたならば、必ずこれらのすれ違いが起こること、女性も気持ち良くなれる方法があると伝えること。」と女性に向けて念押しがされている。
260年前の書物なので鵜呑みにしかねるが、「パートナーに思っていることが言えないが故の」感情のすれ違いは現代でも頻発しまくっているだろう。セックスだけでなく生活上でも「時間が守れない」とか「毎朝洗面所の床を水浸しにされる」とか例えを挙げだしたらきりがない。相手とうまく付き合うためには、新撰古今枕大全にもあるように「伝えること」が大切なのだ。
伝えると言っても「何で分からないんだ」「だからあなたはダメなのよ」と相手を責め立てるのではなく、相手を尊重しながら自分の主張を伝えて、抱えている問題の解決を行う「アサーティブコミュニケーション」というものが重要のようだ。
わたしたちはこういった手法を学び、進歩していかないといけないのだ。だって、新撰古今枕大全におけるパートナーのすれ違いを読んで、「令和の時代にこれを感じるヒトはいない」と断定できる方が何人いるだろうか。
だいしゅきホールドして、だいしゅき!だった相手とのセックスがまんねりしてきて、しかも嫌われるのがイヤで、自分の不機嫌な態度で察してもらおうとする。それがうまく伝わらなくて更に相手に怒るなどの「察して!さん」にならないように、是非「相手を尊重して自分の気持ちを伝える」ようにしたいものだ。「怒る」の感情の裏側には「悲しい」「悔しい」「愛してる」などが隠れてますもんね。たくさんのカップルの幸せが長く続きますように。
【参考文献】
白倉敬彦「春画の色恋」
車浮世「春画入門」
徳川性典大鑑普及会「徳川性典大鑑 上」
Text/春画―ル