口から相手の気をもらう

春画 葛飾北斎《つひの雛形(つひのひながた)》

渓斎英泉《閨中紀聞/枕文庫》の初編に、接吻の意味合いについての興味深い内容が記されている。「三峯採戦」と呼ばれるいわゆる“三点責めテクニック”で、「口を吸ひて女の清気をとり」「口を吸いながら乳をひねさすり、つばを飲めば女の精気を取るゆえに薬なり」という記述がある。口を吸うことにより相手の気を取り込むとは、どういう意味だろうか。このヒントが中国伝統の性愛理論にある。

中国の性愛の考え方に、男性は夜間に精気旺盛で、女性は早朝に精気が蓄積されるというものがある。そのため、夜に交われば男性の精気で女性を補い、朝に交われば女性の精気で男性を補えるのだ。精気が満たされると全身の気血がよく流れ身体が健やかになり、元気になれる。そしてこの気は口、乳、性器から吸収でき、この三か所から気を得る方法が「三峯採戦」、つまり三点責めである。この中国の性愛の考え方が日本で独自に発展し、自分よがりではない思いやりのある“和合”が健康に良い理由として、互いの気で身体を補い合うことができるからと述べている。

春画 磯田湖龍斎《欠題組物(けつだいくみもの)》

接吻の意味合いを互いの気の交換と捉え、そのうえ乳や性器からも気を交換するという考え方は面白いですね。たしかに大好きなパートナーとのキスや交わりは性欲関係なく幸せになれますし、周りの人にも優しくなれるパワーを持っている気がする。私自身、「食べちゃいたいくらい可愛い」と思っている相手にチュウチュウしたこともある。大閣秀吉が“掌中の珠”と愛おしんだ幼児・秀頼に送った手紙にも、「口を吸いたい」という内容が書かれている。もしかしたら秀吉も我が子から”元気になれる気”をおすそ分けしてもらっていたのかもしれませんね。

Text/春画―ル