私とセックスをしようと思うなよ!無職の僕を居候させてくれた女性/中川淳一郎

かつて生活に困窮していたとき「うーん、じゃあウチにしばらくいていいよ」と言ってくれた女性がいた。彼女の名前は美帆さん。僕は25歳で彼女は32歳だった。彼女の1DKの部屋に僕は寝袋を持ち込み、ダイニングキッチンの隅で寝る生活に入った。彼女は寝室に布団を敷いて寝ていた。

「ニノミヤさ、とにかく私は親切心からキミを泊めてあげているんだから、余計な考えを起こすんじゃないよ」

彼女はこう言った。つまり、「私とセックスをしようと思うなよオラ」ということである。それは当然の話なので僕は「もちろんです!」と答えた。そしてなんとか仕事を見つけるまで、美帆さんの部屋で過ごさせてもらうことになった。

毎晩僕は「おやすみなさい」と美帆さんに言い、寝袋に入ったのだが、ある日家に戻ったらドアの向こうから「アァ~ン、イイ!」などといった美帆さんの喘ぎ声が聞こえた。誰か男を連れ込んでいるようだった。元々こちらは単に居候なので2人の行為を邪魔しないよう、小便を静かにし、そのまま睡眠薬を飲んで寝袋に入った。

2人が僕の帰宅に気付いていたかどうかは分からないが、僕はそれから9時間ほど寝て、起きたらその男もいなかったし美帆さんも会社に行った後だった。そしてこの日も誰か仕事をくれる人がいないかを探すべく知り合いに電話をし、ハローワークに行った。

その晩、せめて普段住まわせてもらっている感謝の気持ちを表すべく、カレーを作ったのだが、帰ってきた美帆さんは「うわー、ちょうどカレー食べたかったの。ありがとう!」と言った。

そして、我々は2人してビールを飲みながらカレーを食べたのだが、その席で美帆さんから言われた。

「昨日さ、男が来てたでしょ? あの人、今、付き合い始めた人なんだけど、朝、ニノミヤが寝てるのを見てキレちゃったんだ。あなたを起こして問い詰めようとしていたから私は『別に何もないから気にしないで!』と言ったけど、プリプリしながら会社に行っちゃった。アンタはまったく起きなかったから良かったけど、もしも起きてたらケンカしてたかもね」

そういった意味では睡眠薬の効きっぷりに感謝したし、その男とハチ合わせなくて良かったと心から思った。美帆さんは僕の作ったカレーをおいしいおいしいと食べてくれ、おかわりもしてくれた。

どうやら美帆さんは、無職で家にも困っている僕を哀れに思い、居候させてくれていることは彼氏に伝えてくれたようだが「女だったらさておき、なんで男なんだ!」と彼はキレたようだ。

まぁ、その気持ちも分かる。ただ、彼女は僕に対して「余計な考えを起こすんじゃないよ」と言ったし、僕も引け目があるので美帆さんに対して手を出すことはない。そこらへんは確認しあった。