ラブグッズは誰のためのもの?
200~300年前の日本のセクシュアリティを調べてみると、社会的背景や考え方、人々の地位によって「性に関する質」にかなりの差があることがわかる。もっとわかりやすく言うと、わたしたちに当たり前にある性欲を満たすための手段や体の生理現象、たとえば月経に関しても、股に当てる当て物の質や形状が社会的地位により異なる。
今回のコラムでは、“男性側に装着する”性具(アダルトグッズ)についてクローズアップしていくのだが、興味深いのが「性具を使用すること」が中流階級から上流階級たちが使う道具に留まらず、庶民たちも使用していたことだ。催淫効果をうたったお香や、膣の締まりをよくする薬もあり、セックスを娯楽的に行っていたことも興味深い。このセックスへの姿勢は当時の娯楽や余暇を過ごす手段が現代よりも少なかったことも、もちろん影響していると思われる。
また、当時のラブグッズは「笑い道具」など様々な呼ばれ方をされ、性具の素材は高価なものから食べ物を代用することもありました。性具の用途や素材は職業やその人の置かれている状況にも左右されるため、「誰」が「なんのために」使っていたのかにも着目していきます。
果たして、現代のわたしたちがセックスをする理由、ラブグッズを使う理由と同じなのでしょうか? 今のラブグッズと形状や用途は同じなのでしょうか?
吾妻形と呼ばれる「オナホ」
男性器装着型の性具には大きく分けて2パターン、「男性自身のマスターベーションのため」と「女性に挿入するため」があります。つまり、「自分が気持ちよくなるためのもの」と「相手に気持ちよくなってもらうためのもの」です。
まず、男性のマスターベーションのための性具として代表的なものは「吾妻形(あずまがた)」と呼ばれる品です。いわゆる「オナホ」です。上の絵の、男性が丸めた蒲団にはめ込んで使用している道具が、まさに「吾妻形」です。両国の「四ツ目屋」と呼ばれる店で販売されていました。
「吾妻形」自体は当時かなりメジャーな性具のひとつだったようで、様々なハウツー本で紹介されています。しかし専門店で販売されている「吾妻形」は高価なもので、長屋に住む独身の一般男性が気軽に購入していたとは思えず、当時のハウツー本をいくつか読んでみると、「吾妻形」のつくり方が紹介されていました。購入するよりも身近で手に入る材料で手作りしたり、代用品で済ませていた男性が多かったのではないでしょうか。
葛飾派による『陰陽淫蕩の巻』の吾妻形の説明には、手作りの吾妻形の挿絵があり、作り方が書かれています。簡単に説明すると、
恋人がいない男性がマスターベーションをすることは珍しくなく、吾妻形を使用する。その品が無いときにはビロードで作られた柄袋(刀剣の柄を覆うための袋)または煙管筒を裏返しにして、三巾布団を丸めてその布団にはめ込む。布団の上下は紐で縛っておく。
とある。刀剣も煙管も持たない男性ならば、さらに身近な食物で代用する方法もある。渡辺信一郎氏の書籍『江戸の閨房秘具と秘薬』に掲載されている「全盛七婦玖腎(ぜんせいしちふくじん)」によると、よく蒸した真桑瓜(まくわうり)の小口を切り、種を出し、切口に性器を押し込み、抜き差しする方法がある。真桑瓜の内側のひだひだが、まるで女性の膣のような感触らしい。
他にもコンニャクを使用する方法もある。
月岡雪鼎の『新童児往来万世宝鏡』ではコンニャク芋を蒸してすり潰し、右上の図のように成形し、その中に丁子(クローブ)や肉柱(シナモン)を細かく砕き、成形した吾妻形に入れてマスターベーションを楽しむよう書かれている。ようは、手作りのコンニャク製のオナホである。右下の絵に描かれている男性の股間に注目すると、コンニャクでできたオナホを使用し、布団を抱きしめている。
もちろん自分の手で性器をしごく方法もあるが、よりセックスをイメージできるマスターベーションの手段として「吾妻形」が重宝されたのであろう。コンニャクを使うマスターベーションの方法は現代でも聞いたことがあるが、コンニャク芋から作る発想はなかった。
- 1
- 2