お尻を叩いて…私はいやらしいドMの女なの/秘密のスーベニール『楽園の罠』(10)/AM官能小説

【あらすじ】
夫との南の島への旅行で彩夏は同じホテルに滞在する駿に出会う。ミステリアスな駿に惹かれた彩夏は、何度も彼の部屋を訪れては屈辱的なプレイを強要されてしまう。彩夏が求める駿自身は、いつまでたっても彼女の中に入ってくることはなく、玩具や他の男のそれで、弄ばれるプレイが続く。駿のそれを口で咥えされられながら他の男に後ろから犯されている彩夏は、混乱しながらも次第に恥辱にまみれた自分の中で何かが芽生えてしまうのを感じた。

幻冬舎 楽園の罠 真野朋子 AM 小説

第10回 秘密のスーベニール

 彩夏はその夜、夫に後背位をリクエストした。彩夏の方から体位の希望を出すことはめったにない。夫はいつになく積極的になっている彩夏に驚いた様子だった。まさか自分の妻がヴィラまで出かけて行って、想像を遙かに超えるような体験をしているとは露ほども疑っていないのだが。
「どうしたんだよ、急に」
「いいから。バックでやってみてよ」
「さてはいやらしい映画でも見たんだな」

 妻の変化などまるで関心がない夫は、そのくらいしか理由が思いつかないのだろう。彩夏はこの数日で過剰なぐらいのホルモンとアドレナリンの分泌があったはずだ。肉体的にも何かしら変化が起こっているはずなのだ。

 彩夏は自分からベッドの上で四つん這いになり腰を差し出した。花びらはすでに、玩具やロイの持ち物でさんざん荒らされていたがもちろん夫は気づかない。
「あー、こんな風にするの、久しぶりだ」

 夫の逸物が入ってきた。まだよく濡れていないせいか少し引き攣るようだが、とにかく根元までは入ったようだ。
「これも悪くないな」

 しかし夫の動きにはキレ味がなかった。若いロイは、そのほっそりとした腰を猛烈な勢いで動かし、ピストンしてきた。駿にしても、テレサを相手に交わっていた時は逞しい躍動を見せていた。それに比べて我が夫は……実に退屈で緩慢な動作で、ゆるゆると抜き挿しを繰り返している。

 何をもたもたしているの! もっと激しく、もっと強く、もっと深くよ!

 私が悲鳴をあげて泣き出すぐらいの勢いでないと満足できない。

 お尻を思いきり叩いてもいいのよ。だって私はすごくいやらしいドMの女なんだから……
「ああ、これけっこう気持ちいいな。興奮するよ」

 ひとりで悦に入っている何も知らない夫。ようやく調子に乗ってきたのか、ピストンが多少はリズミカルになってきた。だがたとえれば、ロイの動きがキレのいいヒップホップダンスだとしたら、夫のは幼稚園のお遊戯だ。

 夫のたるみがちな下腹が、彩夏のヒップに当たってピタピタという接触音を響かせている。再びだらだらとした単純な運動が続いている。
「ん、何かよくなってきた。僕、そろそろ限界だけど、いっちゃっていい?」
 いいも悪いも彩夏が返事をする前に夫は果てた。

 終わってすぐ大の字に寝転がっている夫を横目に、彩夏はシャワーを浴びるためバスルームに消えた。

 遂に滞在最終日がきてしまった。夜の便で彩夏たちは東京に戻るのだ。レイトチェックアウトにしてもらったので、夕方までは部屋を使える。

 しかし彩夏は朝食の後もずっとそわそわしていた。夫がずっと部屋にいてなかなかひとりになれないからだ。最後にもう一度駿に会わないと、この旅が終わらない気がしてならなかった。
「私、マッサージに行ってこようかな」
「好きだね。ほとんど毎日行ってるんじゃない? 僕はプールでひと泳ぎしてくるよ」

 こっそり駿にメールを送ってみたが、なかなか返事がない。彼の方も妻が戻ってきたのだろうか。いつもはすぐに返信があるのに、電話にも出てくれないのだ。

 夫が出て行ったのを見計らって、彩夏はすぐさまヴィラに向かった。もう返信など待っていられない。

 毎日通っていたヴィラの前まで来てみて、彩夏は愕然とした。ドアは大きく開いたままで掃除係のカートが止まっていたが、毎日の清掃ではないことはすぐにわかった。部屋の中に駿の持ち物は何ひとつなかったからだ。

 彩夏は小走りになってフロントに急いだ。ひょっとすると部屋を変えたのかもしれないと思ったからだ。

 フロント係の男性は流暢な英語で彩夏の質問に答えた。ミスターはけさ早くチェックアウトした、と。奥さんもいっしょに? と訊くと怪訝な顔をして、ミスターは独身でひとりでの滞在です。いつもひとりでいらっしゃいます。とビジネスライクな口調で返事をするのだった。

 結婚しているというのは嘘だったのだ。いかにもナンパ目的ではないようなふりをして、既婚女性に近づくためなのか。

 ミスターはたくさんガールフレンドがいらっしゃるようですが……フロント係が初めて笑った。彼は日本に帰国したのかしら、と質問すると、ミスターはシンガポールに住んでいるのですよ、と黒縁の眼鏡を引き上げながら彼は答えた。

 何もかも嘘だったのだ。彩夏はまんまと彼の罠にかかった愚かな人妻なのだ。
「そうそう、これ、ミスターから。アヤカさん、あなたに渡すように言われてました」

 手渡されたのは小さな茶色い紙袋だった。

 もぎ取るようにして受け取ると、彩夏はロビーの隅に座ってそっと中を見た。

 鮮やかなピンク色の小型ローターが剥き出しで入っていた。彩夏をさんざん惑わし狂わせた例の小物だ。期待したメッセージや手紙は入っていなかったが、この贈り物がすべてを語っているような気がした。

 急いで部屋に戻ってベッドにもぐりこんだ。夫が泳いでいる間がチャンスだ。

 ローターは低いうなり声をあげて振動し始めた。彩夏は結局、駿と真に交わることはできなかった。彼がそう仕向けたからで、じらすだけじらされ最後は逃げられた。

 彼が自身のモノを決して収めようとしなかった場所に、彩夏はピンクのローターを挿し込んでみた。振動が脳天をつくような快感となって彩夏の全身を貫いた。

 髪を振り乱し、身をくねらせ悶えに悶え、やがて終息した。頭の中は駿との行為の数々で埋め尽くされていた。たとえそれが罠だったとわかった今も、彩夏には微塵の後悔もなかった。    

【おわり】

Text/真野朋子
幻冬舎×AM特別ページ