ここに並んで、代わる代わる可愛がってあげる/予想外の客『楽園の罠』(5)/AM官能小説

【あらすじ】
夫との南の島への旅行で彩夏は同じホテルに滞在する駿に出会う。ミステリアスな駿に惹かれた彩夏は、彼の部屋でベッドに押しされ激しい愛撫を受ける。早く抱いて欲しいと願う彩夏の気持ちに反して、駿は彩夏の両手を縛り屈辱的なプレイを強要した。駿に対する怒りを堪えきれない彩夏は惨めな気持ちで彼の部屋を飛び出した。

幻冬舎 楽園の罠 真野朋子 AM 小説

第5回 予想外の客

 彩夏はその夜、自分から夫のベッドに入って行った。早朝からダイビングに出かけてくたくたになったと言っている夫を無理やり奮い立たせ、自分から迫ったのだ。
「何だよ、こっちが疲れている時にかぎって……」
「私は疲れてないの」

 柔らかい肉塊を掴んで手で刺激してやると、徐々に形を成してきた。口でのサービスはなしだ。昼間さんざんさせられて屈辱を味わったので、今度は自分の好きなように楽しみたかった。
「ずいぶんやる気になってるな」

 ようやく使い物になってきた逸物の根元を掴んだまま、彩夏は裸の夫に跨がってゆっくりと腰を沈めた。
「あ、あああ……」

 特に目新しい刺激はないが、昼間別の男から受けた辱めを忘れるにはこれでもないよりはマシだ。結局、さんざん奉仕させられたが彼のモノはまだ、彩夏のサヤには一ミリも収まっていないのだ。その前段階でフィニッシュしてしまったことを、彼自身恥じていないことも解せない思いでいっぱいだった。
「いいね。いつもこれなら楽ちんだ」

 小刻みに腰を使っている妻を下から見上げながら、夫はまぐろのように横たわっていた。ダイビング中はウェットスーツを着ているので、駿のように全身こんがりと日焼けしてはいない。絶対日にさらすことはない腰の部分は、特に生白くおまけに脂肪がのって締まりがない。

 久々に夫以外の男の裸体に触れてしまった彩夏は、目の前の現実に少々うんざりしていた。体だけでなく肝心な男の部分も駿の方が遙かに上物だ。彩夏はもう、アレが忘れられなくなっていた。

 しかし彼はなぜじらしてばかりなのだろう。楽しんでいるのだろうか。手首を縛ったりわざと放置したりしたが、それもゲームの一環なのか。刺激的であることにまちがいはないが、彩夏には初めての体験なのでどう対処していいのかわからなかった。

 結局夫の上に跨がっていても、考えていることは彼のことだった。行為の最中なのに時々眠りそうになっている夫と駿が入れ替わったら、どんなにいいだろう。夢中で腰を振り、身悶えして彼に奉仕するだろう。少々手荒に扱われてもかまってもらえるならいい。
「あー、気持ちよくて寝そうになるよ……」

 夫が間抜けな声でつぶやいたので、彩夏は慣れた手つきで刺激を与えて終わりにした。次の瞬間、夫は寝息をたてていた。

   翌日は夫とプールで泳いだり、街へ買い物に出かけたりしてふたりで過ごした。なかなかひとりになれないので、駿と連絡も取れずイライラしていた。何をしても夫とでは気が晴れないのだ。そんな態度の妻に辟易したのか、早めの夕食の後で夫は「スパでマッサージでもしてくれば」と言ってくれた。

 すぐさま駿にメールで連絡すると、ヴィラに来ていいとのことだった。「入口にあるブーゲンビリアの鉢の下にカードキーを置いておくから勝手に入ってきて」、とのことだった。謎めいたメッセージに彩夏はわくわくする気持ちを抑えきれなかった。何か秘密の演出でも考えているのかもしれない……今夜こそ駿と一体になれるという期待で彩夏は体が火照ってくるようだった。

 夜になって海風が心地よく吹いていた。スパとは明らかに方向が反対だが、一刻も早くヴィラに着きたいので最短距離で向かった。

 ヴィラの入口には仄かな照明が灯っていたので小さくノックした後、指示通りにカードキーを使って部屋に入った。シンとして物音もしなかったが、「お邪魔します」と声をかけながら奥に進んだ。ベッドルームで待ちかまえているのだろうか、彩夏は期待で体が震え出しそうになっていた。

 ぴったりと閉まっているドアを音もたてずにそっと開けてみて……思わず一歩体を引いてしまった。来るべきじゃなかった、と瞬時に感じたのだ。
「いいんだよ、入って。ぜんぜん平気だから」

 あわてて立ち去ろうとした彩夏に駿が言った。
「奥さま……?」
「まさか。もっともこの人もだれかの奥さんだけど」

 ベッドルームには何と先客がいたのだ。しかも二人は合体している真っ最中だった。女はベッドの下で膝をつき、ヒップを差し出す形で上半身を突っ伏していた。全裸で髪は明るい茶色、顔は見えないが肌の白さからいって白人女性だろう。駿は両手で彼女の腰をしっかりと押さえつけ、バックから責めたてていたのだ。
「あの、私、また来ますから……」
「帰るなよ。君も仲間に入ればいいんだ」  女は彩夏の方に顔を向けて小さく頷いた。そのグレーの瞳はうっとりと潤んでいるように見えた。興奮のため白い顔は紅潮し、彼の責めにすっかり酔っている感じだった。駿が深く突くたびに雌猫のような粘っこい声をあげていた。

 彼女はテレサといって1棟のみの最高級ヴィラに滞在している客だ。駿とはビーチでたまたま言葉を交わしたそうだ。父親ぐらい年の離れた夫と来ているのだが、性的にはまったく満足していないと話していたらしい。
「だから彼女は君よりずっと可哀想なんだよ。ドバイの金持ちと結婚して何不自由ない暮らしをしていても、心も体も空っぽ。こんなに美人でいい体をしているのに持て余しているんだから。僕はボランティアだと思ってるよ」

 駿はおしゃべりしながらもせっせと腰を動かしていた。ほとんど機械的な動作のように見えるが、女は身悶えし歓喜の声をあげっぱなしだ。
「私は何をすれば?」
「ああ、君はテレサの横に、同じ格好で」
「ええっ、ここに並んで?」
「そうだよ。代わる代わる可愛がってやるから」

 あきれた提案に彩夏はすぐに返事ができず、ただ立ちつくしていた。しかし結局は駿に従ってしまうのだろう、ということもうすうす感じていた。彼の言葉には逆らえない絶対的な力があったから。

【つづく】

Text/真野朋子
幻冬舎×AM特別ページ