SMは妊娠・出産の代わり

S氏いわく、セックスとは究極のところ、妊娠・出産の手前にある行為だと。
そして妊娠・出産には苦しみが伴うと。

言われてみれば確かに、妊娠中のつわりも苦しいですし、陣痛や出産本番も苦しいものです。
もっと言えば、産後の妊娠線に悩むのもまた、苦しみの一つかもしれませんね。    ただし。人間は、動物と違って、すべてのセックスが妊娠・出産に直結しているわけではありません。
それどころか、妊娠・出産を着地点としないセックスのほうが、世の中よっぽど多いです。
だからこそ、SMという別のやり方で、S氏は女性に苦しみを与えたいと主張します。

肝心なのはここからです。
男としての本能では、女を苦しめたいと思っていても、肉体的に苦しめることは、文明社会ではタブーとされています。
わかりやすく言うと、殴ったり蹴ったりなどの暴力行為は、犯罪に該当するということ。
それが、社会常識として、子どもの頃から脳内インプットされているから、ハードSMに走る者は少数派なのだと。

「社会常識が邪魔して、ハードSMに目覚めなかった男の本能はどうなるの?」と聞いたところ、S氏は次のように答えました。
「恋愛の優先順位をうんと下げることで、女を苦しめている」と。
むろん、意識的に、「男の本能として、女を苦しめたいぜ!」「だけど俺は、ハードSMには興味が持てないぜ!」「よーし、恋愛の優先順位を下げることで、女を苦しめるぞ!」とは思わないでしょう。
あくまでも無意識の次元でしょうけれども……。

S氏の持論が正しいとするならば、恋愛の優先順位が低い殿方には、SMプレイをおねだりすると良いのかもしれませんね。
SMで、女を苦しめたい本能が満たされれば、恋愛の優先順位を下げる必要はなくなります。

もし次に、恋愛の優先順位が低い殿方に悩まされることになったら、「麻縄で縛られたい」「ローソクを垂らされたい」と提案してみようと思ったのでした。

Text/菊池美佳子

初出:2016.08.01