痛っっっ!!!
全然伝わってない。
しかも、さっきより強めに噛んでいる。
目を開けてみると、彼はひとりよがりにまだキスを楽しんでいる。
ちょっと呆れながら、もう一度キスを中断した。
少し座り直して、ワイングラスをまた手に取った。
もう半分くらい気持ちは冷めていたが、下半身は準備万端だった。
まだセックスをあきらめきれない。
赤ワインを一口飲んだ後、これ以上ないくらいにわかりやすく彼に噛まないでと伝えた。
「セックスしたくないからそういうこと言うんでしょ? 俺のことが好きじゃないんなら、素直に言えばいいよ」
さっきまでノリノリだった彼はプンスカ怒った。
あんなに大人っぽい人が今はおもちゃを取られた子供のようにふてくされている。
さっきまでお洒落に見えた家具やアートも、よく見ればカタログのモデルルームをコピー&ペーストしたような無個性なものばかりだった。
美味しかった赤ワインも、今は渋みばかりが気になってまずい。
会話にならない彼を見て、もう完全に萎えていた。
セックスはもうあきらめることにしよう。
「あなたとはしたいけど、これはしたくない」
そんなシンプルなことを伝えるのはたまに凄く難しい。
セックスという繊細な行為の最中に拒絶されたくないという気持ちはよくわかる。
自分がしたいこととしたくないことを相手に伝えるのは恥ずかしいというのもよくわかる。
ただ、そのコミュニケーションができないとお互いが楽しめるセックスにならない。
相手に噛まれたくないのに、それを我慢してまでセックスをするつもりはない。
したくないことを強要されるのはセックスではないからだ。
それに、一緒に楽しめる行為を見つけるための会話は決して難しくない。
「しゃぶしゃぶが嫌なら、焼肉にする?」
それだけのことだ。
そうしたリスペクトと思いやりで、セックスはもっと気持ちよくなる。
いくら素敵な人でも、この会話ができないならセックスをするつもりはない。
Text/キャシー
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