「また会えるよね?」

 真剣な目でそんな質問をされて、逃げ場をなくして硬直した。
昔から嘘をつけない性格だから顔に出る。
きっと彼はもう答えを知っているんだろう。
それでもこうやって聞いてきたのは、よほど勇気があるか、こっちの罪悪感を煽りたかったのかもしれない。
どちらにしろ、曖昧なままに歩き去ることはもうできない。
ここで相手に同情して優しくしたところで、誰のためにもならない。
見え透いた嘘は礼儀でもなんでもない。
相手に対して礼儀正しくあることは、相手をひとりの人間として扱うことだ。
だから、正直に自分の気持ちを伝えた。

「今日のセックスは楽しかったけど、もう会うことはないと思う」

 もちろん、相手は不満そうだった。
面と向かってそんなことを言われて喜ぶ人はあまりいない。
それを言った自分も罪悪感たっぷりだ。
沈黙の中、帰宅の準備にまた取り掛かる。
こんな結果になるから、曖昧なままの方がいいという人もいるかもしれないが、それには賛成しない。
人生は丸く収まらないことの方が多い。
相手や自分が傷付くのを怖がってあやふやにした方が、余計に痛みを長引かせることだってある。

 忘れ物がないか確認してから、玄関で靴を履いた。
相手はベッドに横になったまま、見送りに来ない。
相当怒っているのだろう。
このまま何も言わずに去った方がいいのかもしれない。
ベッドルームの方をチラッと確認して、ドアを優しく閉じてそのまま家路につく。
鍵はかけなかった。

 バスに揺られて、やっぱりあそこまでハッキリ言うことなかったのかもしれないと後悔していると、携帯にメールが届いた。
彼からだった。

「今日は遊びに来てくれてありがとう」

「こちらこそ」

 さっと返事を書いて、彼のメアドを削除した。

Text/キャシー