キャシー
ランチが美味しいと噂のアイリッシュバーの前でデート相手を待っていると、車椅子に乗った男性が現れた。少し動揺したものの、とりあえずぎこちない自己紹介を済まし、お店の中へ入ることにした。
ふと足元を確認して、選んだデートスポットがたまたまバリアフリーで少しホッとした。テーブルに案内されて、メニューに目をやりつつ緊張を払いのけて何か無難な話題はないか考えていたら、向こうの方が先に沈黙を破った。
「首から下がほとんど動かないから、驚いたでしょ」
彼は笑いながら、慣れたように自分のことを語り出した。交通事故で身体が不自由になったこと。それと同じ時期にHIVに感染したと判明したこと。その後しばらく鬱でまいっていたこと。昔は有名なプレイボーイだったこと。
決して軽い話題ではないのに、彼にかかればなぜか爽やかに聞こえたから不思議だった。最初はどうなるかと思ったが、話が尽きない楽しいランチとなった。